OPINION2 ファシリテーターこそリーダーの本分 想いや強みを活かしきる個に向き合うマネジメント 伊藤羊一氏 Zホールディングス Zアカデミア 学長
上の指示に黙って従う組織から一人ひとりの個を活かす組織へ。
そのためにはフラットな環境が重要であり、それをつくるのは人事ではなくリーダーであると語るのは伊藤羊一氏だ。
いま求められるリーダーの役割とは。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=伊藤羊一氏提供
正解がない時代だからこそ、個に向き合う
「『個を活かす組織』というテーマですが、正直、違和感があります。僕に言わせれば、組織が個を活かすわけじゃありませんからね」
実践型次世代リーダー開発のスペシャリストは、そう口火を切った。『1分で話せ』などのベストセラーでも知られる、LINEやヤフーを擁するZホールディングスの企業内大学「Zアカデミア」学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長の伊藤羊一氏である。
「組織というのは実体のない概念で、本来、それ自体に人格も意思もありません。会社の意思といわれるのは、つまるところ、経営者からメンバーまで一人ひとりの意思の集合体なんです。組織が個を活かすのではなく、むしろ個が集まって、初めて組織は成り立つ。だからマネジメントは、『一人ひとり個に向き合う』ところから始める以外ないんですよ」(伊藤氏、以下同)
伊藤氏の著書のファンなら察しがつくだろう。上述の「個に向き合うマネジメント」の要諦とは、同氏が所属するヤフーの施策として有名な1on1ミーティングの実践に他ならない。自ら“1on1原理主義者”を名乗る伊藤氏は、「そもそもマネジメントはコミュニケーションであり、これからの組織は1対1のコミュニケーションなくして機能しない」と断言する。
その背景にあるのが、タテ(ヒエラルキー)からヨコ(フラット)へ、社会・産業構造が大きく変わった、という時代認識である。
「高度経済成長期に代表されるモノづくりの時代は、これをこう作れば売れる、という『正解』がある時代でした。日本企業はその正解を上意下達で、より早く、より正確に実行する能力に長けていた。だから成長したわけです」
タテ=ヒエラルキー型の社会や組織では、個性など必要ない。メンバーは、“上”が指示する正解に黙って従う存在であればよかった。
「現代は正解がない時代です。偉い人々の言うことが全部正しいのか?そんなはずないですよね。むしろインターネットのおかげで、誰でも自由に個人の思いを形にして世に問えるようになった。大学中の女の子と知り合いになりたいという超個人的な思いをFacebookに結実させた、あのM・ザッカーバーグのように。それが、ヨコ=フラットな社会への転換ということです」
ファシリテーターこそリーダーの本分
もはや正解自体がないのに、上意下達でそれをカスケードダウンする手法は意味をなさない。正解がないからこそ、パフォーマンスを上げるためにメンバー一人ひとりの思いや主体性、それを忖度なく発揮できる場が重要になってくる。フラットな社会では、ビジネスの領域でも一人ひとりが主人公になる、フラットな環境が求められるのだ。
では、それを創出するのは誰か。「よく人事の役割といわれますが、誤解です」と伊藤氏は指摘する。