OPINION1 鍵を握るのは1on1と丁寧なフィードバック 個を活かすには、「マネジャーの役割」の魅力を高めよ 中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
正解がわからない時代、企業の競争力を高めるために注目されている「個を活かす」という考え方。
たった5文字のその言葉だが、実践するには「覚悟」が必要だと立教大学経営学部教授の中原淳氏は力を込める。
中原氏が第一に訴えるのは、マネジャーの待遇改善だ。
なぜこれが求められるのか、「個を活かす」こととどう関わっているのか、話を聞いた。
[取材・文]=中田正則 [写真]=中原淳氏提供
個を活かすことは目的でなく手段
これまで日本の企業では、「組織のなかの個」という考え方が一般的だった。だが、近年では「個を活かす」ことの重要性が様々な場面で語られ、なかには「個人のために会社がある」と言い切る企業まで出てきている。なぜいま、このような変化が起きているのだろうか。
「優秀な人材は、個の能力が伸びる仕事やマネジメント、そして個が豊かに生活できる労働環境を求める。ですから、それに対応しないと人材が採れない、離職してしまうということに尽きます」
立教大学経営学部教授の中原淳氏は、こう指摘する。昨今の若年層は、とりわけ優秀な人ほど自身の市場価値を高めることに貪欲で、「自分がどこまでスキルアップできるのか」「どんな経験ができるのか」といったことへの関心が高い。「個を活かす」というキーワードに彼らが惹かれるのは、いうまでもないだろう。
一例を挙げると、情報化が進展した今の時代は、優秀なエンジニアはどこの企業からも引く手あまただ。だが、優秀なエンジニアほど仕事や技術へのこだわりが強いため、魅力のあるプロジェクトや仕事が与えられなければ離職につながりやすい。こうしたエンジニアを自社につなぎ止めるためには、各人の興味や成長を個別に考えて仕事やプロジェクトをアサインしていく必要がある。
結局、変化が激しく人手不足も深刻化するなかで、いい人材を採用したり、離職を防いだりするためには、一人ひとりを大事にして「個を活かす」ことが不可欠になっているというわけだ。
「履き違えてはいけないのは、個を活かすことは、決して企業の目的ではないということです。企業は学校ではありません。企業にとってもっとも重要なのは、当然ながら利益を上げて、革新的なプロダクトやサービスを生み出すことです。ただ、それには優秀な人材を採用しなければならないし、長く会社にいてもらう必要がある。今は、そのための手段の1つが個を活かすこと―― つまり、個々の強みや専門性につながる知識や経験を増やしながら、能力を伸ばしていくこと、だと私は考えています」(中原氏、以下同)
1on1とフィードバックの風土づくり
では、個を活かすことができるのはどのような組織なのか。そもそも、社員自身が「成長したい」「スキルや能力を伸ばしていきたい」と思っていなければ、活かすことはできない。会社に居ること自体が目的になっていたり、言われたことだけをやっていればいいと思っているような人に対しては、会社や上司がいくら個を活かして伸ばそうとしても無理があるのだ。
「だから、まずは採用が極めて大切です。自らを伸ばすことに貪欲な人を採用することですね」
既存の就業者も、働く意識、マインドセットを変えていく必要があるだろう。一人ひとりが能力やスキルの開発をしていこうと思える企業風土・文化を醸成しなければならない。
そのうえで重要なのは上司のマネジメントだ。