OPINION3 管理から支援へ マネジャーを孤立させないチームづくり だから僕たちは、管理職を変えていける 斉藤 徹氏 ループス・コミュニケーションズ 代表取締役/ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授
チームをまとめ、部下の仕事をコントロールする中間管理職。
近年はネガティブな部分ばかりが取り沙汰され、どうも敬遠されがちだ。
だが組織の仕組みやチームの在り方が変われば、管理職の位置づけや役目も変わる。
生き生きと働ける姿を目にすれば、従来の印象が覆る可能性があるはずだ。
発売から1年でセールス10万部を記録した『だから僕たちは、組織を変えていける』の著者で、起業家でありながら大学教授の顔も持つ斉藤徹氏に、これからのチームと管理職の在り方をたずねた。
[取材・文]=たなべやすこ [写真]=斉藤 徹氏提供
社会を変えた4つの転換点
閉塞感、手詰まり、鈍重―― こうした言葉が組織にはつきまとう。なかでも現場マネジャーは上層部と部下との板挟みはおろか、自らもプレーヤーとして成果を求められる。損な役回りにも映る理由は、もしかしたら組織にあるのかもしれない。
『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)の著書である斉藤徹氏は、1990年代初頭から複数の事業を生み出してきた起業家だ。最初の創業からおよそ30年、工業社会から知識社会へと変わりゆくなかで4度のパラダイムシフトに直面したと話す。
最初は「デジタルシフト」だ。今や生活に欠かせないインターネットは、20世紀終盤から本格的に普及する。AmazonやGoogleなどテック界の巨人が産声を上げたのもこの頃だ。
「インターネットがビジネスに与えた最大の影響は、既得権益に風穴を開けたことです。誰もが事業を始められるようになり、競争が格段に激しくなりました」(斉藤氏、以下同)
テクノロジーを味方につけさえすれば、優れたアイデアは公開と同時に世の中を席巻する。すぐ“つながる”世界はビジネスの速度をも変え、規模だけが大きく旧態依然とした企業の競争力を著しく低下させた。
「ビジネスを、完成させるものから、進化させ続けるものへと変えたのもデジタルです。組織は顧客の幸せを探究し、常に新しい価値を生みだす必要が出てきた。組織で働く誰もが学び、変容を続ける“学習する組織”が求められるようになったのです」
続くパラダイムシフトは「ソーシャルシフト」である。TwitterやFacebookなどのSNSは世界中のすべての人を発信者へと変え、リアルを超えたつながりを生んだ。
「これまでなら権力で抑え込むことができた、アンタッチャブルな領域を隠せなくなったのは大きな変化。市井の影響がパワフルになりました」
特に生まれたときからインターネットに触れ続けてきたデジタルネイティブ世代は、テレビでも新聞でもない“誰か”の情報に価値を置き、ゆるくつながる関係を心地よいと思う。
「ソーシャルシフトがもたらしたのは、共感に対する価値です。社会の幸せを追求し、持続可能な繁栄を分かち合う“共感する組織”に、働き手は働きがいを見いだすようになりました」
3つめのパラダイムシフトは「ライフシフト」だ。リンダ・グラットン氏の“人生100年時代”の提言は、働き方改革政策など国をも動かした。何より新型コロナは私たちに大きなインパクトを与えた。
「世界中で一斉に行動が制限され、健康を脅かす危機が差し迫ったと同時に、これまで当たり前だったことが、一瞬にして通用しなくなる事実に直面しました」
オンライン下や輪番体制下での勤務は、直属の上司はともかく、上級管理職や経営陣の監視の目は届かない。働き手の自律と主体的な判断が、より問われるようになった。
「企業は価値観や働き方など社員の多様さを受け入れ、自ら行動し協業し合う“自走する組織”を築き、目まぐるしく変化する社会に適応する必要が出てきました」
そして今年に入り、世の中を震撼させたのがChatGPTだ。米国のOpenAI社が開発した文章生成ツールは、複雑な問いかけに人間が答えるより精緻で詳細な回答を導き出す。AIやロボットがホワイトカラーの仕事さえ脅かし始めた。まさに「ワークシフト」の到来だ。
「私たちには、コンピューターにはできないこと、すなわち人の心や人間的な部分を活かし、過去の蓄積からは導けない創造が問われています」
世の中に一石を投じるイノベーションは、共創によって具現化されるため、他者との関わりは不可欠だ。そして私たちにとってもっとも身近なコラボレーションの拠点が、組織なのである。