リカレント教育促進の支援を いま、日本の未来に必要な“学び”とは 川上悟史氏 内閣官房 教育未来創造会議担当室 企画官
岸田首相を議長とする教育未来創造会議は今年5月、教育改革へ向けた第一次提言を発表した。
日本の教育・人材の課題は何なのか。未来に向けて求められているのはどのような教育なのか。
政策を取りまとめた一人である内閣官房企画官の川上悟史氏は、自身の学びの経験と合わせて、語ってくれた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=編集部
働いて、ようやく学びたいと思った
日本では「勉強好き」を公言して憚らない人は珍しい。むしろ「勉強嫌い」を、普通のことのように受け入れる風潮さえある。顕著なのは、数学だろう。嫌いや苦手で当たり前。好きだと言うと驚かれ、ともすると変わり者扱いされかねない。
「私も正直、子供のころは勉強が嫌いでした。特に算数は分数の割り算あたりから計算ドリルがつまらなくなってきて……」
内閣官房企画官の川上悟史氏は、苦笑しながら振り返る。岸田首相を議長とする教育未来創造会議で教育改革への政策を取りまとめる担当者が、勉強嫌いだったというのは興味深い。しかも川上氏は経済産業省からの出向。数学嫌いの文系出身でありながら、同省で産業技術分野に長く携わってきた。
「なぜ数学が嫌いになったかというと、何の役に立つのか、何のために学ぶのか、よくわからなかったからだと思います。ひたすら、やらされている感じで。でも、社会へ出て働くようになってから、数学を含め、学びたい意欲が沸々とわいてきました。経済理論やデータ解析が理解できなければ仕事にならないという状況になると、あんなに嫌いだった数学も勉強するんですよね」
人事院の制度を使って、大学院へ。30歳を過ぎてからのことだった。
「社会人になってからも学び続け、学び直すことの重要性を身に染みて実感している」という川上氏自身の経験が、リカレント教育やデジタル人材育成などを重点とする教育未来創造会議の提言づくりに活かされていることは、論をまたない。
その第一次提言「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について」が今年5月に発表された。
人材育成を取り巻く諸課題に対応するために、<①未来を支える人材を育む大学等の機能強化、②新たな時代に対応する学びの支援の充実、③学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備>の3つを柱に据えて、具体的な方策を示している。そして、その処方箋の背骨をなすのが、現政権が掲げる“成長と分配の好循環”をコンセプトとした「新しい資本主義」だ。
「人への投資こそが、成長と分配をつなぐ唯一の“かすがい”といっていいでしょう。教育や人材育成は、それ自体が分配となって成長を支え続ける。『新しい資本主義』の実現につながるのです」と、川上氏は強調する。
理系の学生割合を世界最高水準へ
生産年齢人口が減少し続け、国際競争力低下が懸念されるなか、日本の未来を支える人材育成の取り組みは、一刻の猶予もならない。なかでも、デジタル人材やグリーン人材※を含む理系人材の不足にどう対処するかは、企業からの関心も高い最優先の課題だろう。川上氏は「今回の提言でも主要な論点の一つに位置づけられている」と明言する。
「データを見ると、大学で自然科学分野(理系)を専攻する学生数は、全体の35%にとどまっています(図1)。近年、諸外国が理工系学生を増やすなかで、日本は逆に微減している状況なのです。世界と肩を並べるには、少なくとも4割は超えたい。本提言では、OECD諸国で最高レベルの5割を目標値として掲げました」