取り組みレポート|“里おこし”は“人おこし” 組織も里山も「逆開発」で進む! 小湊鐵道株式會社
房総半島の南北を走る沿線で鉄道や乗合・観光バス業を営む小湊鐵道。
同社は、沿線の地域を地元の人々と協働して“逆開発”(里山に戻す活動)をしているが、近年は里山のみならず、組織のなかでの「逆開発」をも意識しているとのことである。
どういうことなのかを取材した。
「房総里山トロッコ」に活路
春になると、沿線を黄色い菜の花が彩り、乗客の目を楽しませる。千葉県・房総半島の真ん中を走る小湊鐡道は運転開始から103年の歴史を誇る、全線39kmのローカル線だ。その一部区間、五井駅から養老渓谷駅までをのんびり1時間かけて運行するのが、いま話題の観光列車「房総里山トロッコ」である。
「今年(2020年)1月に例の『チバニアン』も正式決定しました(※沿線の養老川岸にある地磁気逆転期地層。地質年代の区分を特定する国際標準模式地に認められ、地球史の一部に「チバニアン=千葉の時代」の名が刻まれた)。トロッコ列車に乗って、ぜひ多くの人に日本初の快挙の地を訪れていただきたいです」と、石川晋平社長は声を弾ませた。
のどかな田園風景のなかをレトロなSLに牽引されて進むトロッコ列車の客車には、窓がない。天井もガラス張りの開放型だ。
「ただ景色を眺めるだけではなく、気持ちいい風や陽の光をじかに浴びたり、鳥の声や草花の香りに包まれながら美味しいお弁当を食べたり、五感のすべてで里山の魅力を堪能していただきたいんです。そのために、人と自然とを隔てる壁をできるだけなくそうと思い立ちました」
しかも、速度は通常の半分以下の時速25km。風景がよく見えるだけでなく、沿線住民とも目線が合い、互いに自然と手を振りあう。
「お客さんが喜んでいるのを見ると地元の人もうれしいし、その笑顔を見てお客さまもまた喜んでくれる。そうした出会いや交流は我々にとっても刺激になります」
障害物を取り払って、ゆっくりと進むことで、いままで見逃していた地域の豊かさ、人と自然の潜在力が見えてくる――。石川社長が、自ら発案したトロッコ列車の可能性に小湊鐵道の未来を見いだしたのは、社長に就任して6年目。2015年のことだった。
消えゆくものを守った祖父の遺志
2005年に、祖父の石川信太氏が30年近く社長・会長を務めてきた小湊鐵道に入社。それ以前は地元の銀行に勤めていた。畑違いのうえに、「子どものころから会社には足を踏み入れたこともないし、列車に乗ったこともなかった」という。それほど疎遠だったにもかかわらず、祖父の「小湊に来い」のひと言で、入社が決まった。
「問答無用。つべこべ言う余地などないんですよ、明治生まれのおっかないじいさんでしたから(笑)」
しかし、同社の業績はバブル崩壊直後の1993年をピークに下降線をたどり、石川社長が入社した当時も地方私鉄のご多分にもれず、収益・乗客数とも減り続けていた。何より沿線の人口減に歯止めがかからず、好転の兆しさえ見えなかった。