第23回 ボッシュ 渋谷本社ビル(東京都・渋谷区)
コロナ禍によってテレワークが浸透し、働き方が大きく変わった。
必ずしも1つの場所に集まる必要がなくなったいま、オフィスの在り方や出社そのものの意味も変わろうとしている。
今回はいち早くオフィス戦略を変更した企業を訪れ、その考えを学ぶ。
渋谷駅から歩くこと5分、六本木通り沿いに面した、地下2階、地上17階建ての建物が、ボッシュの本社機能を担う『渋谷本社ビル』だ。
『渋谷本社ビル』は2016年6月から2019年3月まで、33カ月かけて、地上2階から16階までの計15フロアの改装工事を完了した。
この改装工事は単なる「オフィスのリニューアル」ではない。同社が2017年にグローバルで打ち出した「IWC(Inspiring Working Condition)」、“創造性や感性を刺激する働く環境づくり”というプロジェクトを具現化し、革新的なオフィスへと大きく変貌を遂げた。
知識集約型社会を見据えたオフィス改革
IWCに取り組む理由について、下山田淳氏(フュージョンプロジェクト推進室シニア・ゼネラル・マネージャー兼渋谷施設管理部ゼネラル・マネージャー兼渋谷本社事務所長)は次のように解説する。
「世界は労働集約型社会から技術集約型社会を経て、現在、知識集約型社会に向かう最中にあります。知識集約型社会では、たとえば、スマートフォンに代表されるように、『情報のデジタル化』と『情報のネットワーク化』が起こります。誰とでも、どこでも情報のやり取りができる社会では、情報の拡散・修正の速度も飛躍的に向上します。まだ技術集約型社会が全盛だった1886年に創業したボッシュのような企業は、こうした現在の社会的変遷に直面した際に、『考え方』と『働き方』を根本から変えなければなりません。
しかし、ただ『変わらなければ』と言うだけでは、従業員に対して変化の必要性を実感してもらうことは難しい。そこで、オフィスの環境そのものを、『社会の変化に合わせて技術集約型から知識集約型に変化させる』という考えが、IWCの本質であり、この渋谷オフィスの設計思想です」
「場所」と「人」の両面から変革を推進
改装に伴い、渋谷本社ビルは「ABW※」を採用した。しかしそれはあくまでも、IWCを実現するための手段の1つの側面にすぎない。
特徴的なのは、工事のスタートと並行して、従業員の意識改革「チェンジマネジメント」に着手した点だ。2017年7月から各部署よりアンバサダーを募り、ボトムアップでプロジェクトを推進した。