第21回 JX金属 新本社(東京都・港区) 稲水伸行氏 東京大学大学院 経済学研究科 准教授
コロナ禍によってテレワークが浸透し、働き方が大きく変わった。
必ずしも1つの場所に集まる必要がなくなったいま、オフィスの在り方や出社そのものの意味も変わろうとしている。
オフィス学を研究する東京大学・稲水准教授とともに、最新の潮流を探る。
2019年6月、JX金属は「2040年JX金属グループ長期ビジョン」のなかで、新たな価値を生み出し続ける「技術立脚型企業」への転身を宣言した。その実現に向けて「長期ビジョンが目指す会社像の具現化の場としてのオフィス空間を創造」するとして発表されたのが、今回訪れた新本社への移転計画だ。
翌年、2020年6月に東京・オークラプレステージタワーにて稼働を始めた。新本社は、“来たくなるオフィス”をコンセプトに①「『生産性を高める』場」、②「『技術に触れる』場」、③「『人と人とをつなぐ』場」の3つのキーワードを基に構築されている。
“来たくなるオフィス”の実現に向けた社内環境の整備
まず、①「『生産性を高める』場」を実現するために、オフィス戦略としてABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング※)を導入した。在宅勤務の必要性を認識し、手厚い環境整備も行う一方で、同社は対面のコミュニケーションによる新たな価値創造に重きを置く。
「技術立脚型企業として新しいものを生み出し続けるためには、“Face to Face”での議論を重ねることが極めて重要であると考えています。そのためには、場所にとらわれない自律的な働き方をサポートするのと同時に、自発的に出社したくなるような魅力的なオフィスづくりにも取り組まなくてはなりません。
そこで、今回の本社移転では、“来たくなるオフィス”と銘打ち、社員同士の交流を促進する場を目指すことを設計から運営まで強く意識しています」(総務部総務担当課長の村木茂亮氏)
最初に案内いただいた執務スペースは、会議“室”にこもらない「ワイガヤ」を意図して設計されたという。社員同士の偶発的なコミュニケーションを誘発するよう、目線を遮らない広々とした空間のなかにあえて執務テーブルや打ち合わせスペースをジグザグに配置した。話し声への配慮のため、スペース内にはマスキング効果も備えたBGMが小さくかかっている。