OPINION3 目標管理の前工程+後工程で成長力を引き出す ジョブ型で見えてくる「マネジメントの未来」 守島基博氏 学習院大学 経済学部 経営学科 教授
世界の急激な変化に追いつき、日本企業の存在感を高めるには、個人の成長が不可欠だ。
だが一般的な目標管理手法、MBOは機能不全に陥りやすく、学びや挑戦を生み出しにくくなっている。学習院大学経済学部経営学科教授の守島基博氏は、ジョブ型の「ある要素」を取り入れることで目標管理はうまく回り出すのでは、と説く。
ジョブ型導入によって成長を生み出すマネジメントを実現するには。
ジョブ型導入で目標管理の何が変わるのか
経営環境が激変する時代、従来の目標管理の在り方に疑問を抱く人事は多いことだろう。一般的な手法であるMBO(Management By Objectives:目標管理制度)についても、「うまく活用できていない」「形骸化している」といった声を聞く。
しかし、意外な処方箋がある。ジョブ型の導入だ。目下、徐々に浸透しつつあるが、背景にはDXやグローバル化、事業改革の必要性が増したこと、個人の働き方や考え方が変わったこと、人材の多様化が進んだことなどがある。新型コロナによるテレワークの広がりも普及を後押ししているようだ。
学習院大学経済学部経営学科教授の守島基博氏は次のように説明する。
「導入の引き金となったのが、各企業のDX戦略などにより専門技能を持つ外部人材の採用が急務となったが、伝統的な人事管理の枠組みでは対応できず、見直しを迫られる企業が増えたことです。ただ、企業によって導入のしかたは様々。自社の状況に合わせ部分的に活用するところが多いようです」(守島氏、以下同)
やり方しだいだが、ジョブ型をうまく導入することで目標管理の在り方はおのずと変化するはず、と守島氏。具体的にどんな要素を取り入れれば、自社の目標管理にメスを入れられるのか。
守島氏が第1に挙げるのはジョブ型の本丸、「職務・役割の明確化」だ。経営戦略に基づいて個人の役割やミッション、期待する成果を明らかにする。ただし、詳細なジョブディスクリプション(職務記述書)は必須ではないという。
「もともとジョブディスクリプションには多岐にわたる記載が必要で、職務内容、責任範囲、成果目標などのほか、必要となるコンピテンス(能力・スキル・行動特性)などが細々と挙げられていました。かつての米国企業では数多くの項目をカバーしていましたが、最近は必ずしもそうではありません。日本企業においても同じ。極論を言うと、ジョブディスクリプションの詳細はあってもなくてもいいのです」
細部にこだわるより、「どんな成果を出してほしいか」を明確に打ち出すことの方が重要という。
「『あの山に登ってくれ』と伝えたら、あとは東の道を行こうが、西の道を選ぼうがかまわない。具体的な方法、タスクについては本人に任せ、必要なコンピテンスも自主的に身につけてもらえばいいでしょう」
第2の要素は個人が手を挙げ、自ら希望するポジションに異動する「本人主導の配置」。
たとえばジョブ型では「新規プロジェクトにおけるインターネットマーケティングのスペシャリストを募集する」など、職務内容を具体的に明示し募集する。
「やるべきことをはっきり示せば、職務に必要な専門知識と経験を持つ人材が集まる。したがって目標設定の際、『うちの課の今期の重点課題はこれとこれだけれど、あなたはどれに取り組みますか』といった話し合いがスムーズに進められます。上司と部下の間で目標を握りやすくなる、ということですね」