CASE1 リコー|「社員の主体性」を引き出すトップのコミットメント 経営戦略と教育・啓発の両輪でSDGs時代をリードする 阿部哲嗣氏 リコー ESG戦略部 プロフェッショナルサービス部 ESG推進室 室長

環境保全と事業活動とは別のものではない――。
20年以上前、トップの強い意志によって始まったリコーの環境経営は、重要社会課題「マテリアリティ」を掲げ、全員参加でESG目標の達成を目指す現在の取り組みへと受け継がれた。
経営戦略としての同社のSDGs、ESGの取り組みを聞いた。
経営方針にESGを組み込む
リコーのサステナビリティへの取り組みはグローバルにおいて高い評価を受けてきた。2015年、「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」では国連、フランス政府から公式スポンサーの打診を受け、会場で使用する再生複合機、プリンターを提供。2017年には事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的イニシアティブ「RE100」に、日本企業として初めて参加している。
ESG戦略部の阿部哲嗣氏は「2020年日経SDGs経営⼤賞において⼤賞を受賞していますが、特に社員の積極的な参加、経営陣のリーダーシップが高く評価されたと聞いています」と話す。
リコーのサステナビリティ活動の歴史は古く、経営戦略としての取り組みはなんと20年以上昔にさかのぼる。
「1998年、当時の桜井(正光社長)が『環境保全と利益の創出を同時に実現する』という経営方針を打ち出し、他社に先駆けて『環境経営』という言葉を使い始めました。いまの社長、山下(良則氏)は当時、イギリスの生産拠点にいたのですが、『環境経営とはどういうことですか』と桜井に直接質問したことがあるそうです。すると、『生産性を高めるということは資源やエネルギーを効率良く使うことでもある。環境保全と事業活動とは別のものじゃないんだ』と話してくれたと。山下は強く影響を受け、それ以降、環境経営推進に尽力したそうです。そのことが2017年4月の社長就任時、経営方針においてSDGs、ESGを重視する姿勢の発表につながっていると思います」(阿部氏、以下同)
山下氏ら経営陣は第19次中期経営計画の発表にあたり、経営理念や経営戦略、ステークホルダーの要請に基づき、特に重点的に取り組む社会課題「マテリアリティ」を定め、2017年に発表した。経営企画部門とサステナビリティ部門で素案をつくり、経営層が議論を重ねたという。
ことにベンチマークしたのがダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・ワールド・インデックス(DJSI World)や国際環境非営利団体(CDP)だ。企業のESG活動を測定するためのグローバルスタンダードとして広く認知された評価制度である。また、投資家や欧州などの大手企業の要望も分析した。
その結果、決定したのが「事業を通じて社会課題解決を図る5つのマテリアリティ」(現在は、「“はたらく”の変革」「生活の質の向上」「脱炭素社会の実現」「循環型社会の実現」の4つに改定)だ。2020年にはこれらを支える「経営基盤の強化」に「ステークホルダーエンゲージメント」「共創イノベーション」「ダイバーシティ&インクルージョン」の3つのマテリアリティを新たに追加している。そして、それぞれのマテリアリティに紐づく14の「ESG目標」を設定した。
2018年は山下社長自らが委員長を務めるESG委員会を設置。ESG委員会は年4回開催し、投資家など外部の意見を参考にマテリアリティやESG目標などを柔軟に見直す体制としており、ESG目標も現在は17項目に増えた。「“はたらく”の変革」に「デジタル人材育成」を、「共創イノベーション」には「特許のETR(他社が引⽤した特許の多さを示すスコア)スコア増加率」を入れるなど、時流に合わせ変更を加えている(図1)。
ESG目標はそれぞれ中長期の目標を掲げている。たとえば使⽤電⼒の再生可能エネルギー⽐率は2022年度までに30%、25年度までに35%以上。グループをあげて向上に取り組む女性管理職⽐率は、22年度までに16.5%。今後も中期経営計画に応じて目標値を見直していく予定だ。目標は「絵に描いた餅」で終わらないように、達成度が執行役員以上の役員報酬に連動するしくみになっている。
「目標は各役員が管轄する組織の重点施策として展開され、さらに部門ごとに分解されて割り振られます。社員たちはそれぞれ自分の部署に降りてきた目標の達成に向けて仕事をすることになります」