OPINION1 人と組織がゴールに向かって動き出す 激動の時代こそ総点検したい目標管理制度 伊達洋駆氏 ビジネスリサーチラボ 代表取締役
組織の遠心力が働きがちな時代、自社の目標管理ははたしてうまく機能しているだろうか。
従来の制度のどんな点を見つめ直し、テコ入れすればいいのか。
また、どうマネジメントすれば正しい運用につなげられるのか―。
組織・人事領域全般、特に組織と個人の関係性をめぐる領域に精通するビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏に、これからの目標管理の在り方を取材した。
これまでの目標管理でいいのか
社員のモチベーションを引き出し、成果につながる目標とは。またゴールまでどのように伴走すればいいのか―― テレワークが定着し、ジョブ型雇用に舵を切る企業も増えつつあるなか、目標管理の在り方にますます注目が集まっている。
「一般にバーチャルチームはコミュニケーションがとりづらいため、対面のチームに比べて生産性が低いとされてきました。しかし、チームと個人が目標を立て、達成のためにきちんとすり合わせをするバーチャルチームは、対面のチーム以上にパフォーマンスを出せることが、研究調査から明らかになっています」
ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏はこう説明する。仕事の方向性ややり方がバラバラになりがちないまだからこそ、自社の目標管理制度を見つめ直してもらいたい。
改めて、目標管理はどのような理論に根差し、発展してきたのか。伊達氏は次のように振り返る。
「20世紀以降、経営学の世界では様々なモチベーション研究が進められてきました。なかでも心理学を基に構築された理論として脚光を浴びたのが、1970年代ごろから発展した目標設定理論です」(伊達氏、以下同)
メリーランド大学のエドウィン・ロック氏らによって提唱された同理論の要諦は、「目標を立てるかどうかが人のモチベーションに大きな影響を与える」というものだ。
日本でもっともポピュラーな目標管理制度、MBO(Management by Objectives and Self Control)はこの目標設定理論に触発されて導入、実践が進められた。一般的には「上司と部下が定期的に話し合って目標を立て、期末に達成度を評価する制度」と受け止められている。もともとドラッカーが提唱したことで知られるが、彼が強調した“Self Control”、すなわち“進捗や実行を各人が主体的に管理するプロセス”については、日本では省略して理解されているようだ。
多くの企業に採用されている一方で、残念ながら「導入したものの運用がうまくいっていない」という企業も少なくない。というのもジョブ型雇用の米国企業と違い、メンバーシップ型雇用が前提の日本企業は、目標を達成しても、基本給に評価を反映させづらいからだ。かわりに賞与に反映するか、能力開発に活かすといった代替策を採る企業が多い。
かわって近年注目されているのがOKR(Objectives and Key Results)である。インテルCEO(当時)のアンディ・グローブ氏が考案し、メガベンチャー、スタートアップ企業を中心に広まった。
「特徴は全社の目標と連動させていること。会社全体から部、課、さらに個人へと、目標を分解し落とし込む。ある意味トップダウンで進めていくニュアンスがあります。しかも、ムーンショット(月に届くほど挑戦的という意)と言って、あえてストレッチした目標を立てる。定量的な目標を明確に定める点も特徴と言えます」
会社が困難な目標を掲げれば、個人も高い目標に挑むことになる。OKRを導入するのであれば、チャレンジングな目標を目指す風土を会社全体で醸成していく必要がある。
個人と組織との目標のすり合わせが困難に
伊達氏は、「VUCAの時代、せっかく立てた目標も環境の変化によって意味をなさなくなる可能性がある」と指摘する。
「働き方や人事制度の変化によって、従来の目標管理が機能しづらくなっていると、実感している人も多いのではないでしょうか。今後は目標も中長期と短期の両方を併せ持ち、それぞれ臨機応変に見直しながら柔軟に戦略を立て直す姿勢が求められます」
加えて、冒頭のとおり、テレワークやジョブ型雇用の導入が進めば、個人の自律が促され、組織との目標のすり合わせもますます大きな課題となる。
「個人が自律するほど遠心力が働き、組織で動くことの効率性、さらには組織の意味そのものが薄れてしまう。1on1などの話し合いの場をこれまで以上に丁寧に設けるべきでしょう。経営側からの情報発信にも力を入れたいところです」