特集│HR KEYWORD 2022 整える ISO 30414 人的資本の情報開示が当たり前の時代に 岩本 隆氏 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授
企業における人的資本の重要性の高まりとHRテクノロジーの普及を背景に、欧米では企業における人的資本の情報開示を義務化する動きが起きている。
そんななかで注目されているのが、人的資本に関する企業報告のガイドライン「ISO 30414」だ。
どのようなガイドラインであり、人事はどう対応していくべきなのか、日本初のISO 30414リードコンサルタント/アセッサー認証取得者である、慶應義塾大学大学院特任教授の岩本隆氏に聞いた。
人的資本情報開示の流れと標準化の動き
2011年、国際標準化機構(ISO)において、人材マネジメントに関する規格(どのようなデータを基にどのような計算式で数値化するか)を開発する技術委員会「TC 260」が発足した。TC 260での標準化作業を経て、2018年に出版されたのが「ISO 30414:社内外への人的資本レポーティングのガイドライン」である。こうした動きが起きた背景について、岩本氏は次のように解説する。
「2008年にリーマンショックが起きた際に、サブプライムローンのような金融工学を駆使した実体のない対象への投資が大きな批判を浴びました。しかし、投資家にも言い分がありました。当時の米国では、すでにサービス産業やソフトウエア産業が主流となっていたため、財務諸表を見たところで企業の成長性を判断することができないというのです。実際に、2020年のS&P 500の企業価値の90%は無形資産と言われています。そうなると、有形資産を表している財務諸表を見たところで、企業価値の10%しかわからないことになります。そこで、リーマンショック以降、投資家から企業の無形資産、すなわち人材情報に対する開示要求が強まりました。その流れのなかで立ち上がったのがTC 260です」(岩本氏、以下同)
TC 260からはISO 30400番台で複数の文書が出版されているが、そのうち14番目のドキュメントがISO 30414である。ISO 30414には人材マネジメントの11領域について、データを用いてレポーティングするための58のメトリック(測定基準)が示されている(図1)。
「ISO 30414は人材マネジメントの企業報告について網羅的に定義されており、大きな注目を集めています」
2019年11月、米国のSEC(証券取引委員会)がISO 30414をベースに人的資本情報開示を義務化する動きに出た。米国では、それまで人的資本に関しては従業員数のみ開示義務があったが、上場企業はその他の人的資本情報も開示しなければならなくなった。
「ただ、義務化されているとはいえ、開示するメトリックは企業の任意となっており、投資家には不評です。なぜなら、各社が同じ分量で開示しないと企業間での比較ができないからです」
そこで現在、米国連邦議会で「Workforce Investment DisclosureAct of 2021」という法案が審議されている。この法案では情報開示についてISO 30414に準拠することが明記されており、「もし成立すれば、ISO 30414のメトリックで人的資本情報を開示することが世界のスタンダードになる可能性があります」と岩本氏は話す。