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Learning Design 2021年09月刊

気づきのエンタ MOVIE|未知なる価値の「掛け算」の不在
人材開発担当者にご紹介したいエンタメ情報です。
仕事の合間の息抜きにぜひ!
このたびの東京オリンピックの閉会式のパフォーマンスを観ていて、コロナ禍による予算削減や運営チームをめぐる解任騒動が相次ぐなかの大変さは察するとしても、ごく端的に言えばかつての日本が五輪や万博などで見せてきたサプライズや勢いがまるでないことにうなだれる思いだった。これを評してさる識者が「クリエーティブ・マネジメント」の不在を指摘していて、大いに頷いた。つまりこの大イベントに召集された個々のアーティストがどうこうと言うよりも、大所高所からここにどういう才能を集めたらどういう「掛け算」が実現するかという読みが可能な目利きの圧倒的な不在ということである。
あまりにも現役スタッフが問題を生じさせたせいなのか、式の山場には武満徹や冨田勲といった故人の名作曲家たちの楽曲が使用されていて、新たな作家の起用が見送られていたのも(武満や冨田が大好きな私には嬉しくもありつつ)複雑な気分であった。そして、まさにその武満と冨田で連想したのが、ごく最近42年間の実質的「封印」を解かれて上映、ソフト化がなった篠田正浩監督、坂東玉三郎主演の映画『夜叉ヶ池』であった。というのは、「弦楽のためのレクイエム」などの純音楽で異彩を放った天才・武満徹を映画音楽の世界に本格的に引っ張り込んだのが篠田監督であり、まさに『夜叉ヶ池』も冨田勲のシンセサイザーによるクラシックのアダプテーションを泉鏡花原作の世界に導入した作品であった。
プロフィール
1979 年 日本
監督:篠田正浩
発売・販売元:松竹 『夜叉ヶ池 4K デジタルリマスター版』Blu-ray 2021 年 7 月 14 日(水)発売決定!
佐賀県出身。
映画評論家、映画監督。
早稲田大学政治経済学部卒業後、電通に勤務。
30年にわたり会社員をしながら映画評論家、映画監督として活動。
著書に『大島渚全映画秘蔵資料集成』(2021年)、『秋吉久美子調書』(2020年)他多数。
映画作品に『葬式の名人』(2019年9月公開)など。