MOVIE 人事に役立つ映画 未知なる価値の「掛け算」の不在 樋口尚文氏 映画評論家 映画監督

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このたびの東京オリンピックの閉会式のパフォーマンスを観ていて、コロナ禍による予算削減や運営チームをめぐる解任騒動が相次ぐなかの大変さは察するとしても、ごく端的に言えばかつての日本が五輪や万博などで見せてきたサプライズや勢いがまるでないことにうなだれる思いだった。これを評してさる識者が「クリエーティブ・マネジメント」の不在を指摘していて、大いに頷いた。つまりこの大イベントに召集された個々のアーティストがどうこうと言うよりも、大所高所からここにどういう才能を集めたらどういう「掛け算」が実現するかという読みが可能な目利きの圧倒的な不在ということである。
あまりにも現役スタッフが問題を生じさせたせいなのか、式の山場には武満徹や冨田勲といった故人の名作曲家たちの楽曲が使用されていて、新たな作家の起用が見送られていたのも(武満や冨田が大好きな私には嬉しくもありつつ)複雑な気分であった。そして、まさにその武満と冨田で連想したのが、ごく最近42年間の実質的「封印」を解かれて上映、ソフト化がなった篠田正浩監督、坂東玉三郎主演の映画『夜叉ヶ池』であった。というのは、「弦楽のためのレクイエム」などの純音楽で異彩を放った天才・武満徹を映画音楽の世界に本格的に引っ張り込んだのが篠田監督であり、まさに『夜叉ヶ池』も冨田勲のシンセサイザーによるクラシックのアダプテーションを泉鏡花原作の世界に導入した作品であった。