CASE 1 ザ・リッツ・カールトン東京 理念を浸透させる“1日15分”の積み重ね 自ら考え、行動できる仕組みが 感動的なサービスを生む
ザ・リッツ・カールトンホテルのサービスは、顧客に感動を提供するとして「ミスティーク(神秘性)」と呼ばれる。
世界中に数多くのファンを獲得するサービスの秘密は、大幅な権限委譲の下、従業員一人ひとりが企業理念に基づいて行動することにある。
理念浸透のお手本ともいえる同社の浸透策を取材した。
●基本的な考え方 理念の下、自ら行動する組織
ザ・リッツ・カールトンホテルの従業員は皆、お客様のためになると思ったら、上司の判断を仰がずに自分の意思で行動することが認められている。
例えば、他部署の仕事を手伝うために、自分の判断で通常業務を離れても構わない。もちろん、それによって自分の仕事が回らなくなり、逆にお客様に迷惑がかかるようではいけないが、事前に上司に確認しなかったからといって怒られることはない。
以前は、お客様のためであれば、誰でも1日2000ドル(約20万円)まで使ってよいとされていた。今は、具体的な金額は定めていないが、それは、制限以上の金額が発生することもあるため。ちなみに、2000ドルというのは、お客様に届け物をするために、アメリカの東海岸から西海岸まで往復できる当時の航空料金が基準になっているという。理念に基づく行動ならば、一般のスタッフが自分の判断でこれほどの金額を使ってもよいという考えなのである。
通常の会社であれば、「お客様のためにこうしたい」と思っても、上司の許可を待たなければ行動できないことが多い。お客様を大切にする理念の下、自らの意思で行動できるからこそ、スタッフのモチベーションが高まり、日々、感動的なサービスが生まれる。
一人ひとりの行動の基準となるのが、企業理念「ゴールドスタンダード」だ。「クレド」「モットー」「サービスバリューズ」など5つのパートからなる。特に「サービスバリューズ」は、12 項目の全ての主語が「私」であり、「理念は、誰かがしてくれるものではなく、自ら実現するもの」という考え方がよく表れている(図)。
「これは、ホテルという業界ならではかもしれませんが、実際にお客様と接するのは現場の従業員一人ひとりです。マネジメントレベルだけでなく、彼らが理念を理解し、それに基づいて行動しなければ、ザ・リッツ・カールトンホテル全体として、私たちのお届けするサービスがお客様に伝わらない結果になってしまいます。自社と直接契約している社員ばかりでなく、例えば、ハウスキーピングの協力会社のメイドさんたちも含め、当社で働く全員に理念を浸透させることが不可欠と捉えています」(人材開発部ラーニングマネージャーの上島綾氏、以下同)。
●理念浸透策 意識を高める7つのポイント
具体的にはどのように理念を浸透させているのか。同社の取り組みを見ていこう。
①徹底した教育
正規入社の社員には、入社時に3日間の時間を費やし、ゴールドスタンダードの内容を教育する。