OPINION1 リスクとチャンスは表裏一体 SDGsへの取り組みは新しい企業競争力の源 水野雅弘氏 TREE 代表取締役
「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」前文には、SDGsの目標・ターゲットは「経済・社会・環境」の三側面を調和させるものだと示されている。
しかし、SDGsを本業に組み込み、ビジネスとして活用している例は多くない。
企業が取り組みを急ぐべき理由は何か。持続可能な環境社会を実現するために、環境普及啓発事業や人材育成事業を推進するTREE代表の水野雅弘氏に聞いた。
「資源枯渇に加担」と自責の念
地球は1つでは足りない―世界自然保護基金(WWF)が衝撃的なレポートを発表したのは2010年のことだった。このままの生活水準で地球資源を使い続けると、2030年には「地球が2つ必要になる」との分析結果を提示し、地球システムの限界に警鐘を鳴らしたのだ。
そうした状況下で生まれたのが、 SDGs(Sustainable Development Goals)。地球の持続可能性を取り戻すために、国連が2015年9月に世界共通の行動目標として採択した「持続可能な開発目標」である。
もっとも、危機が叫ばれるようになったのは、ここ5年、10年の話ではない。半世紀前の1972年には、すでに有識者団体のローマ・クラブが報告書『成長の限界』で、「地球の成長は100年以内に限界に達する」と問題を提起し、国際世論に大きな波紋を広げた。
「にもかかわらず、日本を含む先進諸国はその後も大量生産・大量消費の時代を謳歌し、現在へと至るわけです。資源の無駄遣いは改善されるどころか、むしろ増大の一途をたどりました。私自身も、若いころはそれに加担していたという自責の念があります」と切り出したのは、株式会社TREE代表の水野雅弘氏である。
水野氏は日本におけるダイレクトマーケティングの草分け的な存在。米国のCRMやコールセンタービジネスをいち早く国内市場に導入し、数多くの企業へのコンサルティング実績を積んだ後、現在は持続可能な社会づくりへの貢献に特化した各種支援事業を展開している。
もともと水野氏が起業したのは、20代前半にメディアの世界で活躍していたころ、マスマーケティングによる経済損失や環境負荷に違和感を抱いたのがきっかけだった。
「当時、テレビやラジオに大量投下されたコマーシャルは、有名なタレントを使った海外ロケなど、商品の価値以上の過剰なプロモートが多く、無駄と矛盾を感じていました。そのコストがすべて価格にはね返るからです。一方、売れない在庫が大量に発生し、廃棄されていました。資源の無駄遣いはマスマーケティングの必然と言わざるを得ません」(水野氏、以下同)
水野氏は、マーケティングコストの最適化を図るために、各種のダイレクトビジネスを創出したが、「顧客の消費活動を促進することは、企業の収益拡大につながる一方で、結果的に環境負荷を増大させるだけだった」と述懐する。自戒を込め、持続可能な社会を実現するために、ビジネスの在り方自体を変革したいと志す水野氏。その起点となるのは、もちろんSDGsである。
SDGs達成はビジネスの力で
SDGsは、それが示された国連の合意文書「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文で、「持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるもの」と定義されている。