OPINION 2 識者が振り返る経営戦略の20年 矛盾する経営戦略と人事戦略
これから経営型人事になることを求められる人事部にとって、経営と経営戦略を理解することは重要である。そこで、現在、ベストセラーとなっている『経営戦略全史』の著者である三谷宏治氏に経営と人事のこれまでと今後について聞いた。「経営戦略と人事戦略は、矛盾する関係にある」という三谷氏。その本意と、これからの人事のあるべき姿を紹介する。
新たな勝ち方を見つけるために
──この20年間、日本企業をめぐる環境はどう変化したのでしょう。
三谷
まずは、日本企業の世界への影響力が非常に弱まったということがいえます。それにはいろいろな理由があるのでしょうが、中でも大きいのは、今までの勝ち方が通用しなくなり、それに代わる新しい勝ち方を身につけられなかったこと。
もう1つは、日本の市場の縮小です。日本企業の強さって、やっぱり1億人規模の母国市場に支えられていたんですよね。その市場が相対的に小さくなってしまったのですから仕方ありません。日本の厳しい顧客たちに鍛えられたおかげで、品質も上がり、コストも下がり、というように強くなったわけですが、残念ながら、もうそれだけでは支えられなくなってしまいました。
かつてのように「改善」を続ければどうにかなるわけではなく、試行錯誤をして、どんどん新しいことをやっていかなければならないということを思い知らされた20年、という言い方ができるかもしれません。
──マイケル・ポーターが、96年の論文『戦略とは何か』に書いたように、「日本企業には経営戦略がなかった」ということでしょうか。
三谷
いえいえ。特にこの10 年、追い詰められた結果とはいえ、新しい市場をつくるために戦略を見出した日本企業がいくつもあります。
かつては、1つの業種の成功パターンはたった1つでしたが、今では多様な成功パターンが生まれています。たとえばホームセンター。従来のホームセンターとは比べものにならないほど数多くの商品を並べ、遠くから人を呼べる、カインズホームのようなスーパーホームセンターが生まれましたよね。多品種化で商圏を広げることで、巨大店舗での商売が成立したということ。
その一方で、コメリという会社は、DIY用品(金物など)と園芸用品に特化した店舗を展開。周辺に暮らす兼業農家の人たちにとって非常に便利な店なので、商圏は狭いけれど、そこでのシェアはものすごく高いんです。数年前に1,000店舗を突破し、業界3位に躍り出ました。