CASE4 Jストリーム|人事は愛とマーケティング 顧客は経営層と社員 信頼なくして変革は進まない 田中 潤氏 Jストリーム 管理本部 人事部長
日清製粉時代、新卒採用チームで「採用は愛とマーケティング」というスローガンを掲げてから約20年。田中潤氏は現在、動画配信会社Jストリームで人事部を率いている。
人事部門でもマーケティング思考が必要だと考える理由は。組織変革者として、その真意を聞いた。
2019年7月、日清製粉、ぐるなびの人事部門を経て動画配信会社、Jストリーム管理本部人事部長に就任した田中潤氏。1997年に設立し、順調に拡大を続けてきた同社の従業員は当時、300人程度に達していた。
「私が入社するまで何年も専任人事部長が不在という状況でしたが、経営がしっかりとした会社なので大きな問題はなく機能していました。とはいえ、人事制度や仕事の進め方などには良くも悪くも古さがあるなと感じました」(田中氏、以下同)
IT系企業でありながら、「社風は堅実なところもある」という。
「もちろん、厳しい技術革新競争にさらされてはいますが、動画配信という分野はWebサービスとは異なり、スピード感だけでなく、確実性や安定性が求められるビジネスですから、ビジネスの特性が会社の風土に影響している面はあると思います」
まずは人事部のブランディングから
人事制度でいえば、フレックス制度もテレワーク制度も導入されておらず、副業も未解禁。人事情報システムも未導入だった。そこで田中氏は、入社3カ月後には、フレックスタイム・テレワーク・副業解禁をセットにした働き方改革を主眼とした人事制度改革の第1弾をスピード実施した。人事制度のリニューアルと同時に意識したのは「自分自身と人事部のブランディング」だったという。
「マーケティング思考に立って考えれば、まず何よりも顧客を定義しなければなりません。人事の顧客は誰か。それは経営層と社員の2つだと私は考えています。
経営層を上司ととらえると指示どおり動くだけかもしれませんが、顧客と思えばアプローチは能動的になる。社員に対しても同じです。良い仕事をするためにも、まずは顧客である経営者と社員の信頼を勝ち得ることが大前提となるのも当然のことです」
そもそも人事は営業部門とは違い、恵まれすぎた緩い環境にあるのは事実、とも指摘する。競合先はなく、顧客である現場社員は他の人事部を選べない。仮にサービスに満足がいかなくても、自社の人事部のサービスを利用せざるを得ず、コンペにさらされることもない。だから、提供価値を意識しなくても、業務分掌規程に書かれていることを粛々とやっているだけでも、一応仕事をしたことになってしまう。「極端な話、通達の日付を2020年から2021年に変えるだけで仕事をしたつもりになっている人事部員は、まだ日本に相当いるのではないか」と田中氏は苦笑する。
「1992年、日清製粉で採用チームに配属されたとき、『採用は愛とマーケティング』というスローガンを掲げました。異動してきたばかりだったのと、若造だったので無遠慮で傲慢なところもあったのでしょう。どうしても当時の人事部という存在が内に閉じたつまらない組織に見えてしまい、営業時代に得たマーケティングの考え方でそれを打破したいという思いもあったのかもしれません」
Tipsで広がった人間関係
ブランディングに寄与した施策の一例を挙げよう。以前からJストリーム社では水曜日をノー残業デーと定め、定時退社を促すメールを一斉送信し、終業時刻後には人事部員が各部署を回って退社を呼びかけるという地道な取り組みを行っていた。しかし、それだけでは残業削減は進まない。
「そればかりか、忙しくてたまらないときに事務的な呼びかけメールが来るのは、社員にとっては“シラケ”しかもたらしません。それは自分が若いころに一番感じたことです。自分がやられて嫌なことをやるのはよくないですよね。
ただ、ノー残業デーを風化させないためには、メールでの案内も重要。では、何か早く帰れるヒントになるようなことを伝えたらどうかと思い、仕事の効率を上げられるような具体的ノウハウ、Tipsをあわせて伝えてみようと思いました。会議を短くする方法や、仕事の段取りのやり方などをパワーポイント1枚でまとめて添付しました」