CASE 2 明治安田生命保険 シニア社員を特別扱いしない 準備期間の“マインドセット”が 意識高く活躍できるシニアを生む
生命保険大手の明治安田生命では、定年後も“戦力”として活躍してもらうための雇用制度として、
2013 年に「エルダースタッフ制度」を開始した。その任用にあたっては2年間の準備期間を設け、
60 歳以降の働き方や心構えについて、自ら考えるための機会を与えている。
どうすれば、60 歳以降も意欲的に働き続けてもらうことができるのか。その秘訣を聞いた。
●背景 シニアも“戦力”である必要性
明治安田生命が定年を迎えた職員の再雇用に本格的に乗り出したのは、2006 年のこと。高年齢者雇用安定法の改正法が施行された同年より、継続雇用制度を設けた。定年となった60歳から最長で65歳まで、1年単位で嘱託として継続雇用するという仕組みで、業務内容は現場のサポート業務が中心だった。
だが、2013 年にその制度を刷新、定年後も戦力として活躍してもらうための仕組みとして、「エルダースタッフ制度」を設けた。なぜ定年を過ぎたシニア層の労働力に焦点をあてたのか。
背景には、同社ならではの事情がある。2004 年に2つの保険会社が合併して発足したため、合併後は事業の整理や新卒採用の抑制といった人員のコントロールを余儀なくされた。その結果、中堅職員の不足など年代別に見た時の人員構成にいびつさが生じた。また、現在職員のボリュームゾーンは、働き盛りともいえるバブル期入社組だが、今後は健康状態の変化や介護の負担などにより、今と同様のパフォーマンスが発揮できるかは未知数である。中長期的に見て、労働力不足が起こりかねない。そこで、若手職員の育成と同時に、経験豊富なシニア層の活躍が必須と判断したのである。
「長きにわたり勤め上げてきた皆さんですから、若手や中堅にはないノウハウや暗黙知を豊富に持っているはずです。年金を受け取るまでの“つなぎ”としてではなく、これまでの経験を存分に活かして、大いに活躍していただきたいですね」と話すのは、人事部でダイバーシティ推進室室長を務める、長谷川誓子氏(以下、長谷川氏)。
具体的にどのような仕組みを設けているのか。まずはエルダースタッフ制度について紹介したい。
●制度 多様な選択肢を用意
現状、日本では、原則として希望者全員が65歳まで働くことができるが、どのように働きたいかというのは人それぞれである。60 歳以降も現役時代と同じように働きたい人もいれば、家庭の状況により、今までより緩やかな条件で働きたいという人もいる。
そこでエルダースタッフ制度は、次ページ図1のように、定年退職直前のパフォーマンスや役職資格、そして希望に応じて職務ランクを4段階に分けた。業務内容も本人の専門性を発揮するものからサポート業務まで、多岐にわたる。
「フルタイムで勤務するE4やE3に属する人が、全体の7割近くを占めます。月に12日程度の出社になるE1を選択する人は、全体の1割程度。定年を迎えても、“まだまだやれる”という意欲ある人が多いことを裏づけていると思います」(人事部人事制度グループグループマネジャーの石川和正氏、以下、石川氏)
給与体系はランクに応じて決まり、年金受給開始前の生活を意識した年齢に応じた手当も用意している。また独自の評価制度に基づく実績評価給も設けており、その評価が翌年の給与に反映される。“頑張った人が報われる”ように、制度を整えているのが特徴だ。
●施策 2年間にわたる手厚い準備期間
だが、いかに仕組みを整えても、“定年後も戦力に”というのは現実として可能なのだろうか。例えば、体力の衰えを感じる中でのモチベーションの維持は、大きな課題といえる。
「確かに『もういい歳だし、楽をしたい』と考える人もいるでしょう。しかしエルダースタッフとして活躍していただくには、もう一段高い意識を持ってほしい。その思いから、準備期間や研修を手厚くしています」(長谷川氏)
長谷川氏の言う通り、60歳以降も働き続けるための準備は、定年の2年前から、着々と進められる(図2)。