企業事例 武蔵野 成否よりも検証を重視し 挑戦を促す風土が 気づく社員を育てる
約20年前、小山昇氏が社長に就任した当時の武蔵野は“落ちこぼれ集団”だったという。
しかし今や、増収増益を続ける優良企業へと変貌。
それを支えてきたのは、感性を磨き、“気づき力”を身につけた従業員たちだった。
この従業員たちの成長を促したのは、気づきと実践を繰り返せるようにした小山氏の指導と、それを具現化した仕組みにあった。
東京・武蔵野地域を中心に環境美化商品のレンタルなどの事業を展開する武蔵野。2000年度、財団法人日本生産性本部が主催する日本経営品質賞を受賞。2009年度には、継続的な経営革新の取り組みが評価され、同年度の受賞組織と同レベルの評価を受けた。同社の経営を建て直し、増収増益企業へと変貌させた社長の小山昇氏は、多数の経営指南書を世に送り出してきたカリスマ経営者である。
独自手法で社員の“気づき力”を磨き、業績に結びつけてきたという同氏。その成功の秘密はどこにあるのか。
気づく感性は体で覚えていく
「人間には、気づける人と気づけない人の2 タイプあるんですよ。なぜ気づけないのか。感性が悪いからです」
冒頭からそう言い切る小山氏。だが、感性が悪いと言われてしまえばそれまでだ。社員の“気づき力”を上げることはできないのか。
「感性とは持って生まれた素質ではありません。訓練によって磨かれるものです。つまり、企業はコストと時間を費やして社員の感性を育て、磨くべきなのです。たとえば今、皆さんのコートをハンガーに掛けている女性社員。彼女はお客様から『よく気づく女性ですね』とほめられることが多い。でも、最初から気づく人じゃなかったんです。入社してから、お金をかけて訓練してきたんです」(小山氏、以下同)
訓練次第とは言っても、ただ教えればいいというものではない、と小山氏は続ける。
「小学校に入学してから大学を卒業するまでに費やす年月は実に16年間です。しかし、新卒の若手がすぐ使い物になりますか?
長年勉強してきた彼らが即戦力にならないのは、ただノートに記録したり、暗記したりするだけで、体で覚えることをしていないからです。“理解”とは、実行して、体で覚えることを言うんですよ。
恋愛論を何冊も読むより、実際に失恋すれば『もうあんな相手はこりごりだ』と痛感するでしょう。これが“理解”です。そんな具合に何度か恋愛を重ねるうちに、やがて運命の相手とめぐり合うことができる。これこそが“わかる”ということ。“体で実行して理解する”という作業を何度も重ねていくことが、気づきのレベルを上げるためには不可欠なのです。単に知識を身につけるだけの研修では、何もわかりません」
良い例があります、と小山氏が取材の場に呼んだのは、入社3 年めで採用課長を務める遠山準一氏。なんと小山氏から顧客の目の前で殴られたことがあるという。小山氏にスケジュールを伝える際にミスをし、ダブルブッキングとなってしまったのだ。結果的に顧客に迷惑をかけてしまって心底こたえたが、遠山氏は、この時のことを決して体罰とは受け止めていない。
さらに遠山氏には、もう1 つ忘れられない出来事があるという。「社員セールス研修でのことです。これは、あらかじめお客様との面談を想定したロールプレイングを行い、それから商品を持って実際に訪問営業をするというもの。その日のうちに必ず1件は契約を取ってくる、という大変ハードな内容です。
ところがそのロールプレイング中、突然後ろから誰かに蹴られたんです。振り返ったら、小山がまさしく鬼のような形相で立っていまして、本気で取り組んでいなかったのを見抜かれたのだと思います。その時の私は『どうすればうまく切り抜けられるか』などと頭であれこれ考えていたのです。