講演録 ~「Withコロナ時代」に求められる組織、人材の在り方を考える~ 異業種交流型 未来構想サロンレポート(後編) 橋本 勝氏 中村和彦氏
新型コロナウイルス感染症の拡大により、いままで当たり前だと考えていた常識や価値観が大きく揺さぶられた。
これから企業が生き残っていくために解決すべき経営課題とは?このようなテーマで2020年10月から2021年1月まで4回にわたり開催されたセミナー「異業種交流型未来構想サロン」。
今回は第3、第4会合の様子をお伝えする。
人生100年時代や第4次産業革命といわれるなか、我々は働き方・学び方をどう変えていく必要があるのか。日米の労働市場や求められる学問分野の変化。そして創造性を有する人材をどう育成するべきかについて、経済産業省の橋本勝氏が国内外の統計をもとに話した。
日米ともに労働市場の両極化が進展
まずは、労働市場の変化について、アメリカと日本を比較してみましょう。
アメリカにおいては、就労人口である16歳から64歳を対象とした労働別就労者シェアの変化を見てみると、専門職・技術職等の高スキル職や、医療・対個人サービス職等の低スキル職が増加する一方で、製造職や事務職等の中スキル職が大幅に減少していることがわかり、日本でも職業別就業者シェアの変化を見ると、同様の現象が見られますが、日米を比較すると日本は高スキル職の就業者が少ないのが課題です。
文系理系を超えた多様な知見が必要
このような労働市場の変化を踏まえて、人材に求められる学問分野はどう変化しているのでしょうか。まずは、アメリカにおける大学院卒の生涯賃金の増加について見てみると、理系、文系ともに、学部卒と比較して生涯賃金が高いことがわかります。
図1は、アメリカにおける2016年から2026年の雇用数の増減見込みです。社会学、人類学、心理学の知識を必要とする職業の伸びが著しく大きくなっています。人文・社会学系の知識を必要とする雇用が増加することが推測できるということです。また、機械やAIで代替できない創造性、感性、デザイン性、企画力といった能力やスキルを具備する人材も求められています。
また、いわゆるビッグ・テックにおいて、たとえばGoogleのUXリサーチャーという職種では人類学、ヒューマンファクター、心理学、ヒューマンコンピューターインタラクティブ、コンピューターサイエンスにおける修士・博士が求められています。つまり、コンピューターサイエンスだけではなく、心理学、人類学、社会学等の多様な分野にかかる修士レベル以上の知見が必要なのです。
「創造性を有する人材」は不況時も強い
職業としての耐性という面から「創造性を有する人材」について考えてみます。いまのコロナ禍に見られるように、産業全体の賃金率が減少している状況のなか、ダメージをあまり受けずに生き延びられる人材は、どんな人材なのでしょうか。
リーマンショック後の2009年における就業者の推移を能力別に見てみましょう。アメリカでは表現力や理解力など基礎的な能力を重視する職業の就業者数が、2009年においても増加しています。また、アイデアを思いつく創造性といった能力を重視する職業の就業者数は、全職業の就業者数より減少率が小さかったことがわかります。
さらに分析を進めると、創造性・発想力を重視しても、経営スキルを重視しない職業の賃金はあまり上昇していないのに対して、創造性・発想力と経営スキルを共に重視する職業の賃金は大きく上昇していることがわかりました(図2)。また、創造性・発想力を重視してマーケティングスキルを重視しない職業の賃金はあまり上昇していないのに対して、創造性・発想力に加えてマーケティングスキルを重視する職業の賃金は大きく上昇していることもわかりました。
つまり、創造性・発想力だけでなく、経営スキルやマーケティングスキルも兼ね備えた人材が不況に強く、また、これからの時代に求められる「創造性を有する人材」であるとも考えています。
大学等と連携したプログラムを推進
これらを踏まえて、「創造性を有する人材」をどのように育成すべきでしょうか。まず、アメリカとイギリスの芸術大学におけるプログラムを見てみましょう(図3)。英米いずれも、企業・産業界と連携したプロジェクト型の教育を通じて、社会人の創造性を育成するプログラムを開講しています。アメリカでは、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインにおいて、理工系のマサチューセッツ工科大学との共同プログラムを開設し、その卒業生の3割は起業、4割はIT企業やデザイン専門企業などに就職しています。