TOPIC CEOが初来日。グローバルレベルの人材開発トレンドが分かる ATD 2015 ジャパンサミットレポート
2015年10月、東京で、世界最大の人材開発・組織開発ネットワークである
ATD(Association for Talent Development)によるイベント、
ATD 2015 ジャパンサミットが開催された。
毎年5月にアメリカで開催されるATD INTERNATIONAL CONFERENCE AND EXPOSITIONの情報を
直接本国のボードメンバーから聞くことができる、初の機会となった。
本稿では、ATDのCEOであるトニー・ビンガム氏の基調講演と、
ソウル大学校教授、チャン・リー氏の特別講演の模様を紹介する。
ATD(Association for TalentDevelopment)は、企業や大学、コンサルタント、トレーニングファームなどで人材開発・組織開発に携わる人々が集まる世界的な組織であり、その会員数は4万人に上る。アメリカに本部を置き、2014年にASTD(American Society for Training& Development)からATDに改称した。毎年5月にはアメリカで国際会議、ATD INTERNATIONALCONFERENCE AND EXPOSITIONが開かれ、1万人以上が集う。
今回はその情報が、ATDの中枢で世界の人材開発をリードしてきた専門家による3本の基調講演と2本の特別講演、5本のセッションを通じて紹介された。
【基調講演】タレントディベロップメントによるイノベーションの促進
トニー・ビンガム氏 ATD CEO
イノベーションの必要性
世の中にはイノベーティブな企業が存在する。時代の流れを見極め、優れたアイデアを生かし、世の中に価値あるものを提供し続ける企業だ。企業が時代遅れにならずに活動を続けるにはイノベーションが必須であり、その傾向は強まっている。
i4cp(米国の人事・人材関連調査会社)が行った調査でも、「5年前よりもイノベーションの重要性が増していると思うか」という質問にYesと答えた企業は80%近くに上る。しかし、「イノベーションを行えているか」という質問には28%しかYesと答えられなかった。つまり、多くの企業はイノベーションの必要性を感じていながらも、創発できているのは4分の1強に過ぎないのである。
しかし現実にはIoT(Internet ofThings:身の回りのものとインターネットをつなげる仕組み)やビッグデータ、3Dプリンター技術など、15世紀最大のイノベーションである印刷が生まれた頃とは比べものにならないほど、さまざまな分野で私たちの生活を変える技術革新が起こっている。
ポイントは、これらをどのように応用するかである。例えば、3Dプリンターで移植用の心臓を印刷する技術の開発は良い例だ。
技術をゼロから開発するには、莫大な時間と費用がかかる。さらに、長い時間をかけてやっと開発した技術が、その時代のニーズにふさわしいものかどうかは未知数である。
今、求められるのは、繰り返し使えて、信頼性が高く、拡張可能なイノベーションだ。さらに言えば、常識を根本から覆し、現状の課題を一気に解決するようなブレークスルーが、イノベーションなのである。
革新を起こす企業の条件
そこで、イノベーションを起こす、「革新的な企業」について考えてみたい。というのも、「成功している企業は、革新的である」とは限らないが、「革新的な企業は、成功している」からだ。「革新的な企業」には次の要素が備わっていると私は考える。
① 経営層が革新的である
私たちが過去に行った調査によると、イノベーションを重要と考える役員の存在と企業の革新性は高い相関関係にあった。
皆さんも、革新的なアイデアが浮かんでも、役員のサポートなしには前に進まないことは経験済みだろう。
② イノベーションが生まれやすい風土や文化
言い換えれば「リスクを許容し、失敗を恐れずチャレンジできる環境」があることだ。それには、多様な意見を受け入れるオープンさと、互いを認め、信頼し合う関係が欠かせない。
例を挙げよう。ボストンにある小児病院とIBMが手を組み、小児科医療のソーシャルプラットフォームを立ち上げた。この病院は治療が困難な症例を多く扱い、世界から注目される存在だ。そこで、専門的な知識や情報を共有し、各国の医療関係者と自由にやり取りできる仕組みを開発した。ボストンにいながら、地域や国境を越えた子どもたちの命を救うことを可能にした。
この取り組み自体が素晴らしいのだが、開発のきっかけもまた面白い。ゴルフのマスターズ中継で、選手のスイングの動きとコンピューターで解析した情報を連動させているのを見た医師が、「医療の現場にも応用できるのではないか」と思ったのが始まりだったという。