CASE2 富士通|全社一律の教育から“個”にフォーカス 社員一人ひとりの自律的な学びなくしてジョブ型は成り立たない 伊藤正幸氏 富士通 総務・人事本部 人材開発部 人材開発企画室長
富士通は2020年4月、教育体系を刷新した。
従来は会社から一律の研修を提供していたが、社員一人ひとりの自律的な学び・成長を支援する方向へと転換。
それを実現するプラットフォームとして、社員向けの学びのポータル「FLX(Fujitsu Learning EXperience)」を運用している。
方針転換から約1年たち、自律的な学びはどこまで進んだのか。
総務・人事本部人材開発部人材開発企画室長の伊藤正幸氏に話を伺った。
富士通といえば、PCなどのハードウエアを思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、売り上げを事業セグメント別に見ると、76%をシステムインテグレーションなどのテクノロジーソリューションが占めている。社員構成も約3万2,600人(単体)のうち約7割がサービス分野であり、人材の質が業績を左右する重要な要素となっている。
人材の強化は長年のテーマであったが、人材育成方針の転換を図る直接の理由にはならない。なぜ同社は新しい人材育成プラットフォームを構築したのか。背景にあるのは、2020年4月から管理職を対象に導入したジョブ型の人事制度だ。伊藤氏はジョブ型について次のように解説する。
「報酬制度が変わるだけと思う人もいますが違います。従来は、人をどう配置するかという人材マネジメントになりがちな傾向にありました。それに対して、ジョブ型はまず職責(ポスト)があり、その職責に求められるスキルや能力をもった人をアサインする。つまり仕事の責任の大きさ・重要性が評価や報酬の基準となるのがジョブ型です」(伊藤氏、以下同)
日本型雇用は個人の能力に合う職務をあてがう「職能主義」と呼ばれるものだ。一方、ジョブ型はポストに合う人を任用する「職務主義」で、賃金はそのポストに紐づき、同じポストであれば賃金は同一となる。昇進も年功序列ではなく、自ら手を挙げる必要がある。
ジョブ型報酬制度は“チャレンジを後押しする”とはいえ、新しい制度を導入するだけでは人材マネジメント全体として機能しない。他にも「事業戦略に基づいた組織デザイン」「事業部門起点の人材リソースマネジメント」といった施策を掲げ、人材マネジメントのフルモデルチェンジを図っている(図1)。
そして、ジョブ型を成功させるために欠かせない施策がもう1つある。「自律的な学び/成長の支援」だ。
「これまではポストが空いても年功的な運用になりやすく、教育も『課長になったのだから、このスキルを身につけなさい』と後から階層別教育をやっていました。
しかし、ジョブ型になれば、そのポストに就く段階で能力はレディー状態になっていなければいけません。ジョブ型は自ら手を挙げてポスティングする制度ですから、会社が押しつける形で教育を提供しても仕方がない。自分でキャリアを描いて、自分で学んでもらう必要があります」
目指すジョブに紐づいた学びのコンテンツをレコメンド
一律の研修を会社主導で提供するのではなく、社員が自分でキャリアをデザインし、必要なものを自分で選んで学べる環境を整える。その考えのもと、富士通が新たにつくったのがオンデマンド型教育のプラットフォーム「FLX(Fujitsu LearningEXperience)」だ(図2)。自分が将来就きたいポストをこのプラットフォームに登録すると、それに基づいておすすめのeラーニングコンテンツがレコメンドされる。それらを履修して能力開発すれば、いざポストがオープンになったときには準備が整っているというわけだ。