CASE.2 大和ハウス工業 カギは仕組みと現場力 カリスマリーダーの経営哲学を受け継ぎ 人間力を組織で強化する
1955年に資本金300万円で創業、以来半世紀余りで、売上高2兆円を達成した大和ハウス工業(以下、大和ハウス)。強力なリーダーシップで同社を日本有数の企業に育て上げたのが、創業者の石橋信夫氏とその後継者である現会長の樋口武男氏だ。2人のカリスマ経営者の経営哲学を継承することで、人間力のあるリーダー育成を目指す同社の取り組みを紹介する。
●背景と人間力の定義最後にものをいうのは人間力
創業者の石橋信夫氏、その後継者である樋口武男氏と、稀代の経営者が続いた大和ハウス。先見の明がある経営者が見出す新規事業を、圧倒的な実行力で実現し、成長してきた。組織を動かす原動力は、2人の経営者が持つ人間的魅力である。
リーダーになぜ人間力が必要なのか、その理由を、大和ハウス・人財育成センターの中村洋一郎センター長は、こう分析する。
「人の信用は、お金や地位で得ることはできません。窮地に陥った時や苦しいギリギリの時に、周囲の人や社員が、“この人を信じよう”“この人のためにやり抜こう”と思うか否かは、その人の人間力にかかっている。だからこそ、リーダーの人間力が重要になるのです」
これを物語るエピソードがある。創業10周年を目前にした1964年、大和ハウスは、経営危機に陥った。もはや倒産かと思われた時、取引先のある経営者が、「これを自由に使ってください」と自分の預金通帳を全て、石橋氏に差し出したという。石橋氏は、気持ちだけをいただき危機を脱したが、勇気百倍とばかりに奮い立った。
後年、この経験を振り返りながら石橋氏は、「身内でもなく親戚でもないのに、そこまでしてくれたのは、自分という人間を信頼してくれてのこと。最後の最後に人を決断させるのは人間力なのだ」と、しみじみ語ったそうだ。
石橋氏の後を継いだ樋口氏も、「長たるものの4つの力」として、「先見力・統率力・判断力・人間力」を挙げている。いかに同社で人間力が重要視されているかがうかがえる。だが、それが何かを具体的に説明するのは難しい。中村氏は言う。
「たとえば、採用面接では、“話し方”“態度”など、さまざまな項目を挙げて、その要素をどれだけ備えているかをポイントで評価します。各項目のポイントを合計した結果、合格点に達していても、何か物足りないと感じさせる人はいます。逆に、ポイントの合計は低くても、この人材は欲しいと思わせる人もいます。その違いが人間力なのです。つまり、人間力とは、個別の要素を合算して評価できるものではなく、オーケストラが奏でる音楽のように、さまざまな要素が融合して生み出されるオーラのようなものです」とらえどころのない人間力だけに、その磨き方も決まった方法があるわけではない。
大和ハウスでは、これまで、こうした価値観は仕事を通じて自然に組織に浸透してきたが、今後さらに組織が拡大し、世代交代が進めば、この状態を維持することは難しい。現場での継承はもちろんだが、それとは別に「組織として維持・伝承していくための装置」が必要になる。