CASE 2 新生PIグループ 業界の常識にとらわれない! “ローテーションをしない”戦略で 社員の努力と意欲を促す
金融業界では、数年おきに定期的な人事ローテーションを行うのが一般的だが、そんな常識にとらわれない独自の人事管理を行っているのが、首都圏の中堅・中小企業に特化して投融資サービスを行う新生PIグループだ。
150人の組織ながら、「ユニークなビジネスモデルで高い収益性を達成・維持している企業」として一橋大学大学院が運営する2015年度『ポーター賞』を受賞している。
その強さを支える要因の1つは、定期異動を行わないことにある。
● 人事管理の基本方針 自社のビジネスに適した組織に
新生PIグループは、新生銀行の100%子会社である新生プリンシパルインベストメンツを持ち株会社とし、新生企業投資、新生インベストメント&ファイナンス、新生債権回収&コンサルティングの3社を傘下に持つ投融資グループ。2013 年に新生銀行の投資銀行業務に関する部署を分社化し、関連の子会社を統合・再編して誕生した。
同グループのユニークな点は、中堅・中小企業に特化して、“オーダーメイド”のサービスを提供する点。創業期の出資・経営支援、後継者への事業承継支援、業績が悪化した際の事業再生支援など、中小企業のニーズは幅広い。同じ会社でも、成長ステージによって求めるものが変化していく。そうした個別ニーズに応じたサポートを行うことで、好業績を上げてきた。
この“オーダーメイド”のサービスを可能にしているのが、一般的な銀行の逆をいく独自の人事管理だ(図1)。従業員150人の小所帯とはいえ、①定期的な人事ローテーションを行わない、②職位が3階層しかないフラットな組織―という特徴は、この業界では異例といえるだろう。
「中小企業は、大企業と比較してヒト、モノ、カネなど全ての経営資源が不足しています。そこで本来、相談相手となるべきなのが金融機関です。しかし、これまでは、十分に期待に応えられていなかったのではないか、その背景に銀行特有の人事管理があるのではないかと考えました」
こう話すのは、新生企業投資代表取締役社長の松原一平氏だ。
ある調査によると、中小企業が金融機関に対して最も課題だと感じているのは、「担当者等の頻繁な交代」である(図2)。せっかく信頼関係が生まれた金融機関の担当者が、企業や業界の理解が浅い担当者に交代してしまっては、中小企業側も心細い。また、金融機関の都合を優先した営業姿勢には、不満の声が多いのだ。
■定期的なローテーションはしない
一方、金融機関側も、担当者の交代が多ければ、オーナーと深い信頼関係を築くことは難しい。だが、ローテーションを行わなければ、専門知識・スキルを高め、顧客のビジネスを深く理解し、顧客と密なリレーションを構築できる。
「業務が高度化・複雑化していますので、専門性を高めないとお客様が満足するサービスを提供できません。また、投資業務では1つの投資先と1~5年間お付き合いしますが、2~3年で異動するとしたら、投資だけして、『後は野となれ山となれ』という意識になりかねません。当社では、同じ人・チームが最後まで同じ企業を担当しますので、甘い投資判断をすると、責任が自分に跳ね返ってきます。ですから、その会社に投資すべきかを深く検討し、本気で成長をサポートします」(松原氏)
■階層の少ないフラットな組織
フラットな組織であることも、大きな強みだ。金融業界に属する企業は多くの職位を設定しているが、同グループは3階層しかなく、全体の約85%が中位の「ミドルオフィサー」に位置づけられる。