企業事例 神戸製鋼所 PSP を活用し、現場での 学習深化と技術継承を実現
高度な技術を効果的に、40 歳以上の年齢差を超えて身に付けさせていく……。
そんな「技能伝承」を実現するため、神戸製鋼所ではモバイル端末・プレイステーションポータブル(PSP)を活用した教育支援ツールの開発を行った。
2006 年4 月から試験導入されたその効果と課題を紹介する。
現場の中での学習を促進する モバイル端末を使った学習ツール
神戸に本拠地を置く神戸製鋼所は、従業員数約9000名、グループ企業も含めると約30000 名(2006 年9 月現在)を擁する1905 年創業の老舗企業である。本社従業員の約40%が技術職であり、全国の製鉄所・工場などでさまざまな業務に従事している。
2006 年4 月、神戸製鋼所の新入社員教育において、新しい試みがスタートした。モバイル端末・プレイステーションポータブルを使っての技術者教育である。この新しい教育の大きな目的は2つ。1つは効率的・効果的な技能伝承。もう1つは、効果的な教育ツールの提供である。
神戸製鋼所において“技能伝承”が課題として浮上した背景には、若手に対する教育ニーズの変化がある。神戸製鋼グループの人材開発を手がける神鋼ヒューマン・クリエイトの吉間豊氏は、次のように語る。
「かつては工業高校を出れば、溶接などの実習経験をある程度積んだ形で入社してきました。ところが現在は、教育課程が変わり、ほとんどそういった実習経験のないまま、入社してくる者が多くなりました。こういった状況の中で、入社してから現場に渡すまでの間に、きちんとした技術を身に付けさせるにはどうすればよいのか、新入社員教育のあり方を、見直す必要が出てきたのです」
神戸製鋼グループでは、阪神・淡路大震災のあった1995年、いったん採用をストップし、1998 年に再開したという経緯がある。採用再開にあたって、それまでは1 年間かけて行っていた新入社員教育を、「新入社員3カ年育成教育」として3 年間に拡大した。また、教育内容の見直しも行い、全員共通のカリキュラムのみの教育に加え、職種別コースを用意。1 年目は共通の基礎技術、2 年目、3年目は共通技術のほかに個別の専門技術を取得する時間を設け、3 年間の教育が修了した段階で、国家資格取得を目指すことを目標とした。同時に研修と職場の連携を強化した。研修で学んだことを職場(現場)に持ち帰り、実際に体験して理解を深め、さらに次のステップの教育を行うという、「研修⇔職場」という育成の流れを明確にした。
「その中で課題として浮かび上がってきたのが、必要なスキルを現場に渡すまでに、いかに効率よく身に付けさせるかということでした。その教育の方法とツールを工夫しようということになったのです」(吉間氏)
指導者不足への対応とベテランの技の保存・継承
教育ツール開発のもう1つの目的は、指導者不足への対応だ。技能伝承には現場のOJTが必須だが、事業領域が拡大するに伴い、スキルの多様化・複雑化が進んだ。
「現在“神戸製鋼所”といいながら、鉄鋼関連事業の売り上げは半分以下。アルミや銅などの非鉄関連や産業機械、プラントなどにまで、事業領域が広がっています。
また、1人ひとりに求められる技術も多様化・複雑化し、1人ひとりが多能工であることを求められるようになりました。
しかも工場や製鉄所は全国に点在するため、ある技術に関する熟練者が、すぐ近くにいるとは限らない。そのため、OJTがうまく機能しなくなってきたのです。かつてのように、1対1で実習を行うことが難しく、1対多で効率的・効果的に教育を実施していく必要性が強くなりました」