講演録|~旭化成のチャレンジの軌跡とともに~ 組織のトライアル&エラーを支えるHRリーダーとは 橋爪 宗一郎氏 旭化成 常務執行役員 人事担当 健康経営担当補佐
「激変する経営環境に対応するには、戦略実現のための将来の人と組織の在り方を構想できる経営視点をもったHRリーダーが必要である」―こんなコンセプトで、2019年から20年にかけて、都内某所で全5回の会合「HRリーダー・コロッセオ」が行われた。
講師には、経営者や人事畑を経験した役員など、錚々たる面々がそろい、経営と人事の関係や真髄を伝えた。
今回は最終会合より、旭化成で、海外でのビジネス経験と、20年以上の人事経験を持つ人事担当役員、橋爪宗一郎氏による講義内容を紹介する。
計20年にわたり人事を担当
本日は、私の経験を踏まえ、人事の仕事に関する私の考えをお話しできればと思います。
まず私が在籍している旭化成は、化学肥料や再生繊維からスタートし、合成繊維、石油化学、建材、住宅など新しい分野にチャレンジしていくことで業績を伸ばしてきました。多様な事業や技術があり、多様な人材がいる会社です。
私自身は1981年に入社し、東京の人事労務部に配属になりました。以降、計20年以上、人事を担当しました。人事の仕事は好きでしたが、海外でビジネスをしてみたいと思っていたので、留学制度に応募して、2003年から約1年間、イギリスのビジネススクールで勉強しました。
帰国してケミカル部門に配属になり、2004年に「MMA(メチルメタクリレート)事業部」、2006年に「モノマー第一事業部」に所属しました。石油化学は原油を蒸留分離したものを分解して原料をつくり、化学反応させて様々な製品をつくります。液体のモノマーは、いろいろな化学物質の原料になります。私が担当したのは樹脂原料等となるAN(アクリロニトリル)とMMAの事業開発です。原料を持つ企業へ旭化成の技術を持ち込み、合弁会社をつくろうと売り込む役割でした。2004~2008年の間は、毎年100日以上、世界各国へ出張しました。2008年に1つのプロジェクトがまとまり、タイで合弁会社をつくり、日本側の責任者として赴任しました。そのまま2013年までタイにおり、帰国後、人事部長を経て人事担当役員になりました。
タイのプロジェクト① 合弁会社で250人の責任者に
タイでのプロジェクトについて、少しお話しします。タイ最大のエネルギー企業PTT と日本の商社と組んだ合弁会社「PTT 旭ケミカル」(PTTAC)を立ち上げました。私は社長としてバンコクに駐在し、約250人の社員を抱えました。2008年から準備を開始し、2013年初めに商業運転を始めました。
合弁の最大のポイントは、世界初のプロパン法AN の商業生産設備である点です。AN はアクリル繊維やABS 樹脂の原料になります。通常はナフサを接触分解したプロピレンでつくるものをプロパンガスでつくろうと考えたのです。旭化成ではその技術開発を20~30年続けてきて、タイで世界初の商業生産設備をつくることになりました。
このプロジェクトは資金の半分を旭化成とPTT、残りの半分を、日系を中心とした9行に融資してもらいました。私は早めにタイへ赴任し、翌年2月には起工式を行いました。ここまではとても順調でした。
タイのプロジェクト② 低品質でトラブル続き
ところが翌年、工業団地全体のプロジェクトを対象とした周辺住民や環境NGOによる環境訴訟、また、工事の遅れや不良など、プロジェクト後半は多くのトラブルに見舞われました。プロジェクトはかなりの期間遅れました。その間、売上が入らないだけでなく、人件費も建設費用もかかる。しばらくは資金は出ていくけれど収入がまったくないという状態で、結局、プロジェクトコストも膨れ上がりました。出資元の親会社や融資元の銀行へ苦しい説明に赴く。そういう状況が長く続きました。
遅れの大きな原因は、建設会社の工事不良です。工事品質に問題がありました。試運転を開始してもトラブル続きです。液漏れや停電など、不具合が頻繁に起こりました。これは習慣が異なることも原因でした。