講演録|チームで俊敏に行動しながら心理的安全性を高め、ビジネスを進める組織開発 大野 宏氏 株式会社Weness JapanCoaching & Consulting 代表取締役
「激変する経営環境に対応するには、将来の人と組織の在り方を構想できる経営視点をもったHRリーダーが必要である」―こんなコンセプトで、2019年から20年にかけて、全5回の会合「HRリーダー・コロッセオ」が行われた。
講師には、経営者や人事畑を経験した役員など、錚々たる面々がそろい、経営と人事の関係や真髄を伝えた。そこで、講義のダイジェストを誌面で再現し、共有する。
今回は第3会合より、日本ロシュ、中外製薬(ロシュグループ)、ベーリンガーインゲルハイムジャパンで人材開発やタレントマネジメントの責任者を務めた大野宏氏の講義に、後日加筆もいただいた内容を紹介する。
第4次産業革命の現代に求められるキーワード
現在の外部環境はVUCA 時代※と称されています。テクノロジーの発展やデジタル化の進展によって引き起こされるデジタルトランスフォーメーションを背景に、今後30年で起きる変化は、産業革命以降の変化としては最大級のものになるといわれています。
IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット。「成長戦略の鍵は第4次産業革命技術の社会実装」といわれるように、従来の産業構造のなかで成長してきた企業においても、大きな事業変革が求められています。
第3次産業革命、つまりIT 化においては、効率化、生産性向上は進んだものの、あくまで従来の延長線上にありました。しかし第4次産業革命は、それらを根底から覆しうる。顧客の課題をとらえ直し、先端ITを活用して新たな価値・サービスを生み出すことが求められており、人材・組織マネジメントにおいても大きな変化が迫られています。そのような環境下で企業・組織・チーム、そしてリーダーとしてどのようにビジネスを実践していくかも、大きな課題です。
そこで昨今私が注目しているのが心理的安全性、Agility(俊敏さ)、そしてバイアス(心理的阻害要因)、ハビット(習慣)といった内容です。これらは毎年開かれる米国タレント開発協会(ATD)のインターナショナルカンファレンスでも注目されているキーワードですが、年々、「何のために、どんな意義に基づいて仕事を進めていくべきか」という問いかけが、ATD でも非常に大きくなっています。人は目的や意義を感じると力が出るもの。その前提があったうえで、正解のないなかの総力戦で、チームが行動を起こしていく際に重要なことは、①心理的安全性と②個々が俊敏(Agile)に行動を起こす、ということです。
そこで本日、HR リーダーたる皆さんには、その心理的安全性や、「チームとはどのようなものなのか」を体験していただきます。
※ VUCA:Volatility(変動性)/Uncertainty(不確実性)/Complexity(複雑性)/Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもの。
アジャイル(俊敏)な行動を支えるものとは
個々が俊敏(Agile)に行動を起こしていくことについて、先にお話しましょう。
現在の厳しいビジネス環境下では、チームメンバー全員が俊敏に実践し、結果をチーム間で対話し、プロトタイプ(試作品)をつくり上げることが望まれます。その際に重要なのが個々にあるバイアス(プロセス指向心理学では「エッジ」)を取り扱うことの重要性です。
バイアス、エッジとは、何かを進めようと思う際の自分の内側の声です。たとえば、「面倒くさい」「失敗して恥をかきたくない」「時間がない」といったような、内側からささやく声です。発達心理学者のロバート・キーガンはこれを「Immunology tochange」、ある意味で自分を守る免疫とも呼んでいます。