第14回 混沌から生まれた成長 コロナに向きあう看護師たちの経験と学び 浅香 えみ子氏 東京医科歯科大学 医学部附属病院 看護部長|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
不確実で先行きが見えない状況で、チームはどのようにして危機を乗り越え、前に進んでいけばいいのでしょうか。看護師チームの危機対応をとおして考えます。
2020年3月25日。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の急増により、東京都は都下の病院に入院医療体制の整備を要請しました。東京医科歯科大学医学部附属病院でも受け入れが決まり、対応が迫られていました。同院は病床数753床、15の診療科をもつ特定機能病院。約990名の看護職員が在籍する看護部で、陣頭指揮を執ったのは今年4月1日に着任したばかりの看護部長、浅香えみ子氏です。先の見えない状況で危機に対応するチームをどうつくっていったのでしょうか。
看護部長着任初日から緊急体制へ
中原:
新しい職場に移られ、早々にコロナ対応とは、大変でしたね。
浅香:
はい。着任初日、通常ならば自己紹介などの場になるはずが、院内全体のコロナ対策会議への参加が初仕事となりました。
中原:
浅香先生としてはメンバーの顔も名前もよくわからないまま、指揮をとらなければならなかったわけですよね。最初にしたことは?
浅香:
まず行ったのは病床の確保です。ハイケアユニット(高度治療室)に重症患者を受け入れる病棟をつくるため、空いている一般病床を見つけ、ハイケアユニットの患者さんを安全に移動させるよう促しました。
その後も受け入れ患者数を増やしていく方向でしたので、受け入れ病床を増やしつつ、他の病床を閉じていくプログラムを進めていきました。といっても、着任直後で何もわかっていなかったので、3人の副看護部長から話を聞くことから始めました。また、初動での細かい動きや指示は副部長に任せるようにしていました。
中原:
コロナ対応の病棟をつくるうえでどんなところが難しかったですか?
浅香:
課題は大きく2つありました。1つは看護師たちをどこに配置し、どのような体制で看護に当たってもらうのか、ということ。もう1つは4月から入ってきていた100名ほどの新入職者への対応です。
中原:
コロナの患者さんへの対応は通常の対応と異なるのでしょうか?
浅香:
陽性患者さんは重症者として看護する必要があるうえ、未知の病気なので手探りで対応しなければなりませんでした。特に一般病床から新しい病棟に来た看護師は、一からの学び直しになったかと思います。