日本CHO協会「人事実践セミナー」レポート これからの時代の中間管理職を考える
VUCAの時代、管理職に求められる役割はますます高度化している。
2022年9月30日にオンラインで開催された人事実践セミナー(主催:日本 CHO協会)では、管理職育成に関するメソッドやノウハウを豊富に持つ人材ビジネス会社の幹部・キーパーソンが、中間管理職育成に関する現状と課題を発表した。
本稿では、そのダイジェストを紹介する。
[取材・文]=菊池壯太
働く人、働き方、学び方が一気に多様化
この数年間、コロナ禍を経て、働き方と学び方は大きく変わりました。人事部門や人材育成関係者の身近な変化としては、企業内のオンライン研修の急速な普及・定着が挙げられると思います。弊社でも、最大で8割近くがオンライン研修にシフトした時期もありました。eラーニングの受講者も増えています。
働き方や学び方の変化は、感染症対策が理由として挙げられますが、実は潜在的な変化への強い欲求があり、それがコロナ禍を経て一気に顕在化したといえるでしょう。見方を変えれば、社会様式の個人へのシフトを表しているのではないかと思います。働く人、働き方、価値観の多様化が、この3年間で一気に進んだのです。
多様化が進むと同時に、人的資本開示の世界的潮流が押し寄せてきました。こうしたなか、ジョブ型人事制度への移行、そして両利きの経営を実現するマネジメント人材の創出が企業経営や人事部門に求められるようになりました。これらの課題の論点としては、次の3つに整理することができます。
1つめは、「個・多様性を生かすマネジメント」です。日本の企業文化に合わせたジョブ・役割型の人事制度において「個人化への対応」が求められているのです。ここでは、主体も組織から個人へシフトします。
2つめは、「両利きのマネジメントによるイノベーション推進」です。コロナ禍で業績が深刻化していることを踏まえると、よりいっそうの既存事業の改革(知の深化)と、新規事業の創造(知の探索)という、両利きの経営が最重要課題となります。しかし、これは従来のマネジメント手法ではなかなか実現できません。イノベーションを起こし続けることができる管理職、もしくはマネジメントスタイルが求められているのです。
そして3つめは、「長期的視点で管理職育成を考える」ことです。新任管理職への登用時に研修を実施する企業が8割を超える一方で、その後の支援は薄いというデータがあります。管理職になったのならば自身で学ぶことも大切ですが、これだけ管理職に多様な役割や能力が求められる時代になると、やはり一定の時間を会社側が育成に充てる必要があります。管理職に対して、人事部門から経験と学びの機会を与えるための施策が重要になってくるのです。
研修の設計には長期的な視点が不可欠
個・多様性を生かすには、従来型のマネジメントでは立ち行かないことがわかります(図1)。「個」は自分自身の個もあれば、部下の個もあります。そのなかで多様性を生かすことが重要になってくるのです。加えて、既存事業を維持管理することのみに注力していたのでは、企業そのものの存続が危機的になってしまいます。知の深化、知の探索という両利きの経営を行うことが求められるのです。
その手法としては、従来のような登用時のいわゆるイベント型の単発研修ではなく、長期的な視点を持つ研修を行うことが必要です。事前・事後のフォローはもちろん、研修に関わる期間を伸ばすなど、管理職として一定の成長が見えるまで長期的な視点を持って育成してほしいと思います。
チームワーキング研修と越境学習
そう考えたときに、弊社が提言しているのが「多様化時代のチームワーキング研修」と「越境学習」という新たな学習テーマです。
チームワーキング研修は、組織開発・人材開発の専門家である立教大学の中原淳教授、田中聡助教とJMAMとで共同開発したプログラムです。「ing型」で変化にどう対応するかが重要なテーマになっており、次の3つがポイントになります。
1つめの「Goal Holding(ゴールホールディング)」は、活動のスタート時に目標設定をして終わりではなく、常にチームが目指すゴールと実現したいことを全員で確認し合い、握り続けるという意味です。環境変化が激しいときは、ゴール自体を見直すことも重要になってきます。
2つめは「Task Working(タスクワーキング)」です。目標達成に向けて何をなすべきかについても、変化のスピードに対応していく必要があります。したがって、管理職はいったん方向性を仮決めして終わりではなく、もっともよく効く課題を探し続ける必要があります。
そして3つめが「Feedbacking(フィードバッキング)」です。ゴールにしても、追い続けていくタスクにしても、期中で見直しをするケースがあります。すると、チームが目指す方向性や連携がバラバラになることがあります。そのため、管理職もメンバーも、チーム活動を進めていくなかで違和感を感じることがあったら、率直にフィードバックし合える環境をつくっておくことも重要になります。
以上の3つがチームワーキングの考え方です。一見、シンプルに思えるかもしれませんが、実際これを管理職が職場に適用していくのは、かなり難易度が高いと考えています。ですから、数カ月間のスパンで実践期間も取りながら、職場のチームメンバーと一緒に取り組んでいただいています。また、長期間にわたるプログラムであるため、職場がどう変わったか、しっかりと効果の測定も行っています。
もう1つの越境学習とは、日常と他日常を行ったり来たりすることで、異質な他者との関わりをきっかけとして、自己流・自社流を見つめ直すというものです。ここで大切になるのは、慣れ親しんだホームから離れて、アウェイの知らない土地で、自身の持つ常識が通用しない環境に身を置くという異質性を保つことです。そう考えると、真の越境学習は、これまでの人材開発施策の延長線上ではできません。そこで、中長期的な越境学習を支援するラーニングワーケーションというプログラムの提供も始めています。