第1回 600人新入社員研修のオンライン化実践 前例の通用しない世界で活躍できる基盤をオンライン研修で醸成 本田技研工業株式会社
新型コロナウイルスの感染拡大は、企業内研修の在り方に大きな影響を与えている。
多くの企業が研修の延期や中止、計画の見直しを行うなか、本田技研工業は早期に新入社員研修のオンライン化を決断・実施し、手応えを感じたという。
オンライン化の経緯や工夫、そして効果とは。
コンセプトは変えずにオンライン化
例年、本田技研工業に入社した新入社員は、三重県鈴鹿市で1週間、入社時研修を受講後、製作所や販売店実習を経て各部署に配属されていた。
しかし、今年度の新入社員研修は、まったく異なる形で実施されることとなった。研修はすべてオンライン化。実習が中止になった分、期間も当初の1週間から2カ月間延長して6月上旬まで行われたのである。オンライン化の経緯について、人事部人材開発課課長の大野慎一氏はこう話す。
「当社では新入社員に限らず全社員に対して、前例の通用しない世界で自ら考え、行動する意志をもつ人材となることを求めています(図1)。正式配属時にその基盤ができていることを目指し、今年度の新入社員研修から、経験学習に基づく新たな研修デザインに刷新する予定でした。しかし、準備を進めている最中に新型コロナウイルスの感染が拡大してきましたので、集合型研修や実習が難しくなることを見越して、主体的な成長を促すための育成を強化するという当初のコンセプトは変えずに、それをオンラインで実現する方向に舵を切ったのです」(大野氏)
新型コロナの感染が拡大した時期は、新入社員を迎える直前。どうオンライン化を進めていったのだろうか。新入社員研修を担当する笠井英明氏と市原佑季子氏は、こう振り返る。
「当社の新入社員は約600名と非常に多く、全員が全国を移動するリスクも鑑みて、人事部内では2月末にはオンラインに切り替える方向性で動き始めました。最終的にオンライン化が決まったのは3月上旬。そこからは、『前例の通用しない世界で活躍していくための基盤をつくる』という当初の目的を実現するために、研修のゴールを具体的な行動変容レベルまでブレークダウンしていきました」(笠井氏)
目的を達成するための、次の5つの目標「①社会人としての基礎を磨く」「② Hondaフィロソフィーの理解と体感」「③社内環境を認識し、働くうえで必要な社内知識を身につけている」「④社外環境を認識し、自らが実践すべきことを理解している」「⑤社会人として求められるコンピテンシーを備えている」それぞれに対し、具体的なゴールを設定し、それに応じたコンテンツを企画していった。先行き不透明な状況のなかでは、スピーディーで柔軟な対応が求められた。
「研修期間についても、3月の段階で6月上旬までの延長が決まっていたわけではなく、社会情勢を見ながら都度判断していきました。育成コンセプトはブレさせず、オンラインで何ができるのか、具体的なコンテンツは走りながら考えたという感じですね」(市原氏)
インプットした学びをアウトプットするプログラムに変更
そして4月1日から、オンライン研修が始まった。
「1週目は、昨年度まで鈴鹿市で行っていた入社時研修と同じ内容のものをオンラインで提供しました。企業理念など、このタイミングで学ぶべきことばかりのため、外せないと考えたからです。ただ、当時はオンラインのノウハウがなかったため、講師に依頼して事前に撮影したビデオを流すくらいしかできなかったのが反省点です。後半になるとオンラインの知見がかなり増えてきたので、今振り返ればもっとインタラクティブにすることもできたと思います」(市原氏)
例年であれば、入社時研修後はモノづくりの現場で働く製作所実習や、顧客と接する販売店実習に向かうが、今年4月のその時点は緊急事態宣言の最中。実習を行うのは難しい状況であり、オンライン研修の延長が決まった。
そこで研修に組み込んだのがワークショップである。背景には、従来の新入社員研修における課題があったと大野氏は指摘する。
「一律のインプットが中心のこれまでの研修では、新入社員が受け身の姿勢になりがちで、自立・自律的に行動する機会が不足することが課題でした。
主体的な成長を促すためには、研修においてもインプットとアウトプットのバランスが取れていなければいけません。そこで、アウトプットが中心になるワークショップを複数実施することにしたのです」(大野氏)
2カ月間の研修中に実施したワークショップは4つある(図2)。
「まず4月に行ったのは、未来を予測し、当社が今後50年生き抜くためにはどうしたらいいかを考える未来洞察ワークショップと、当社の販売店であるHonda Carsにおける新サービスや新体験を提案するワークショップの2つです。SWOT などのフレームワークも活用しました。
5月は少し負荷を高め、他の2つのワークショップを同時並行で実施しました。1つは、移動の喜びを実現するサービスアプリを提案する顧客価値創造ワークショップです。もう1つは、新型コロナウイルス感染者搬送車両の提供などの、当社の支援活動も踏まえて行った『Beyond theCOVID19』 というワークショップ。実際に搬送車両の開発に携わった社員にも登壇してもらい、社会への価値提供のあり方を考えてもらいました」(笠井氏)