OPINION2 人事とマネジメントで目指す Afterコロナ時代の企業と個人の“真のエンゲージメント” 太田 肇氏 同志社大学 政策学部 教授
テレワークの長期化は、単に働く場所が変化するという話にとどまらない。
マネジャーの役割、評価の方法、さらには組織の在り方まで、その影響は多方面に波及する。
働き方の変化がとまることはない時代における、マネジメントと人事の役割とは。
同志社大学政策学部教授の太田肇氏に話を聞いた。
職場の“ブラックボックス化”に不安を覚えるマネジャーたち
先行きの見えないコロナ禍で、導入に拍車がかかるテレワーク。在宅勤務を余儀なくされ、対面で仕事をする機会が大きく減少した状況下での試行錯誤が行われるなか、企業のマネジャーは、ある重大な問題に直面している。職場の“ブラックボックス化”だ。
「部下の働く姿が見えなくなったことで、マネジャーたちは不安に陥り、『役割』よりも『行動』を管理しようとする傾向が強まっている」と語るのは、組織論や承認欲求研究の第一人者である、同志社大学政策学部教授の太田肇氏だ。
「マネジャーの行動と承認欲求の間には因果関係が存在します。テレワークの導入により、『部下に対して、以前よりも頻繁に報告を求めるようになった』といった事象が増えている背景には、『部下が目の前にいないので、評価がしづらい』ということが“表向きの理由”だと思われますが、実際のところ、多くの上司自身の承認欲求が満たされないことに対する“不安の裏返し”であると言えるでしょう。しかし、本来マネジャーが担うべき役割は仕事(役割)の管理であり、人(行動)の管理は必要な範囲内で行うべきなのです」(太田氏、以下同)
「役割」と「行動」の線引き。それをマネジャー自身が理解し、実践できているかがテレワークにおけるマネジメントでは重要なのだ。
また、働き方やマネジメントの在り方が変化しているいま、マネジャーやメンバーの承認欲求の満たし方にも新しい方法が必要になる。太田氏は、①「キャリアの承認」、②「日常の承認」、③「“横のつながり”による承認」、④「“ガス抜きの場”を設ける」、⑤「“晴れの舞台”を設ける」といった、5つのパターンを例示(図1)。特にマネジャーに関しては次のように語る。
「かつての『立身出世』に代表されるような地位や長期的な承認も、組織階層のフラット化がさらに進めば、満たされなくなるかもしれません。今後は、横軸にキャリアを積んでいく過程で実績を上げ、社会的な影響力をもつといった新たな価値基軸の獲得により、承認欲求は満たされると考えられます」
テレワークと「情意考課」の相性の悪さ
そもそも、承認欲求によってマネジャーが陥る“負のスパイラル”など、円滑なテレワークを阻害する要因の根本には、日本企業が重きを置く「情意考課」(勤務態度や姿勢による考課)に問題があると太田氏は指摘する。
「世界中を見渡しても、日本ほど情意考課に評価のウエートを置いている国は珍しいでしょう。『役割』や『成果』で評価される欧米とは逆を行っています。
ちなみに、テレワークと情意考課の相性は極めて悪い。そもそも、部下の働く姿が見えない環境下で、成果ではなく、『態度』や『意欲』、そして、前述の『行動』のような“プロセス重視”の曖昧な評価を行うことに、果たしてどのような意味があるのでしょうか。また、情意考課の名のもとに、常にマネジャーからの監視を受けながら仕事をするような就労環境自体、あまり健全とはいえません。テレワークがきっかけとなり、日本企業で情意考課を見直す機運が、今後さらに高まってくることでしょう」