講演録|~研修での学びを、職場で活かすために~ 雑賀塾(さいがじゅく)と航空宇宙カンパニーでの実践から得た教訓 芝原貴文氏 元川崎重工業 執行役員 人事本部長/総務本部長
「一層激変する経営環境に対応するには、戦略実現のための将来の人と組織の在り方を構想できる経営視点をもったHRリーダーが必要である」―こんなコンセプトで、2019年から20年にかけて、都内某所で全5回の会合「HRリーダー・コロッセオ」が行われた。
講師には、経営者や人事畑を経験した役員など、錚々たる面々がそろい、経営と人事の関係や真髄を伝えた。
そこで、講義のダイジェストを誌面で再現し共有したい。
今回は第2会合より、元川崎重工業執行役員人事本部長および総務本部長、芝原貴文氏の講義を紹介する。
1. はじめに
「雑賀塾(さいがじゅく)」(後述)のような研修をしたいということで、本講師をお引き受けしました。内容は大きく4つ――雑賀塾の紹介と学習したことの概要、研修転移、航空宇宙カンパニーでの取り組み、および事前課題である推薦図書(『ワークアウト』)の購読(本稿では割愛)です。
この4つの内容に共通するテーマは「研修成果をいかに職場で活かしてもらうか」にあると、最初に申し上げておきたいと思います。
2. 雑賀塾:能力開発スタッフとしての出発点
雑賀塾とは、三洋電機の教育訓練部長、雑賀昌幸氏が主催されていた能力開発スタッフ養成塾で、私は1981年に第1期生として参加し、能力開発スタッフに必要なスキルはもちろん、存在意義に至るまで多くのことを教えていただきました。
塾生は、主に旭化成、大阪ガス、川崎重工業、川島織物、神戸製鋼所、三洋電機からの集まりで、各社から1~2人、毎回10人程度が参加する小規模なもの。第10期生までは記録が残っていますが、雑賀氏がご高齢になられたこともあり、それ以降は塾生だけの自主的な研究会として存続したと伝え聞いております。
雑賀塾では、研修を月に1回程度、1泊2日の研修合宿を年に7~8回程度行っていました。そのほとんどが「討議・演習」でした。
能力開発スタッフの役割
雑賀氏のお話で特に印象深かったことをいくつかお話ししましょう。
1つは、「スタッフの意味と存在理由」です。ラテン語の「杖」がスタッフの語源とのこと。“渦中の人”となったとき、ほとんどの人は自身を客観的に見ることができなくなります。そこで、能力開発スタッフが一歩離れた立場から職業的専門性を発揮して、個別具体的な問題を解決する「杖」となるのです。逆に、職業的な専門性がないスタッフは、存在価値がないと、雑賀氏は厳しい目を向けられていました。
もう1つは、「能力開発スタッフの役割・仕事の基本手順」。役割とは単純に言えば、“真の原因は何か”を探ることです。仕事の基本手順については、具体的には①「問題・課題の認知」に始まり、②「原因追究と証拠立て」と③「目標値の設定と研究開発」を行い、④「対策・解決策の設計」を経て⑤「実施」に至ります。
雑賀氏は③の「目標値の設定」をゴールとよんでおり、解決策として、どの状態までやるのか、明確な目標を設定することが重要であるとおっしゃっていました。