第11回 アグリゲート代表取締役CEO・左今克憲さん 「おいしい」でつなぐ農業とビジネス 左今克憲氏 旬八青果店|寺田佳子氏 インストラクショナルデザイナー
人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。
「今、旬の野菜は?」「おすすめの食べ方は?」
そうしたコミュニケーションが、食をより豊かにしてくれるのではないか。
そんな想いで誕生した旬八青果店では、新鮮でおいしい青果を、適正価格で販売しています。
今回は、旬八青果店の創業者である左今克憲さんに、「おいしいインフラ」のお話を聞きました。
01 新鮮でおいしい食卓の記憶
左今克憲さんの故郷は福岡県福岡市。祖母と母と自分、という「ちょっと特殊な」家庭だったが、少年のころの思い出を彩るのは、新鮮な野菜や魚が並ぶ食卓の風景だ。
「今思えば、ずいぶんとエンゲル係数の高い家庭だったと思います(笑)」
母親は近所の八百屋や魚屋と仲が良く、「今日はこれがおいしいヨッ、て言われたのよ」と、旬の食材を買ってくるのが常だった。“おいしい”がつくる温かな世界への想いは、こんな記憶から芽生えたのかもしれない。
やがて地元の高校に進学したが、これといって夢中になれるものがないまま、浪人生活に。そこで、1人の予備校講師に言われた。
「本を読め、とにかく本を読め!」
え! 「問題集をやれ」じゃなくて「好きな本を読め」と?
「ええ。ですから小説でもマンガでも、面白そうなものは手当たり次第に読みましたね」
なかでも衝撃を受けたのが、司馬遼太郎の『世に棲む日日』だった。長州の思想家・吉田松陰と、その弟子・高杉晋作という、激動の幕末を駆け抜けた2人の青年の物語である。長い鎖国で世界から孤立していた日本にいながら、「日本の長州」ではなく「世界の長州」の行く末を冷静に見ていた松陰と、司馬遼太郎をして「革命以外には使い道がないほどの天才」と言わしめた激しい熱さを持つ晋作。自分とたいして年の変わらない2人が、明治維新という“革命”のとびらをこじ開けたことに、心が震えた。
維新の志士へのあこがれ、ですね。
「ええ。ただ、2人とも20代の若さで命を落とし、維新後を見ることはなかったのです。それが残念で、『変革の三段階』の最後まで生き残るのはいったいどんな人物なのか、と考えました」
「変革の三段階」とは、社会心理学者クルト・レヴィンが唱えたモデルである。従来の価値観を崩し(解凍)、新たな価値観を取り入れ(変革)、新たな価値観が効果的に機能するしくみを構築する(再凍結)、という3つのプロセスを経て変革は完結するというものだ。
自分も変わりたい。変わらなければならない。そのためには、東京に行かなくては。そう考えた左今さんは二浪の後、東京の私立大学に進んだ。