巻頭インタビュー 私の人材教育論 人財こそ宝。 対話が生み出す腹落ちが その心に灯をともす
創業以来、アルミニウムの原料から加工製品に至るまで、幅広い製品を扱ってきたアルミニウム総合メーカー、日本軽金属ループ。
近年は、赤字事業部門にてこ入れし、経営改革を進めてきた。
真に顧客のニーズにたどり着き、新しいビジネスを創出する人財や事業分野の壁を越える次世代経営者候補の育成が喫緊のテーマだという。
人は適切に育てて磨き上げればかけがえのない財産になるという考え方に立ち、人“財”という言葉を使用する同社の育成プロセスとは。
赤字事業部門の意識が変わったワケ
―経営スローガンとして「チーム日軽金として異次元の素材メーカーへ」と掲げておられます。この言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか。
岡本
日本軽金属グループは、世界でも唯一に近いアルミ総合メーカーです。世界の素材メーカーは大量生産・大量消費という規模の経営に進みつつあります。しかし私たちにとって大切なのは規模ではなく、あくまでも「お客様にとっての価値」を創造することです。アルミに対する豊富な知見と技術をベースに、素材メーカーの概念を超えて、これまでとは違う次元で勝負ができる企業グループになることをめざしています。
そのためには「チーム戦を共に戦える人財」が必要です。グループ1万3000人の従業員がそれぞれ「お客様の顕在的、潜在的な“ほしい”」を真剣に問い、知恵を絞って考え、フランクに議論を交わし、腹落ちし、一つにまとまり、それぞれの得意分野を持ち寄って「チーム日軽金」として力を合わせて推進していく。これこそが日本軽金属グループの大きな強みであり、常に新しい価値創造にまい進する「異次元の素材メーカー」への基盤だと思っています。
―経営戦略についても伺います。まずは2015年までの前・中計を振り返って、いかがでしたか。
岡本
前・中計では、まず“陥没”事業部門、つまり赤字を出し続けている事業部門をケアしていくことに注力しました。これはうまくいき、国内の事業に関しては赤字がほとんどなくなりました。スタート時(2013年3月期)の実績は経常利益69億円で、3年後の目標として220億円を掲げていましたが、結果的に245億円まで伸びました。
―赤字の原因は何だったのですか。
岡本
私たちの活動は、基本的に「コスト」です。それに対してお客様が「価値」を認めてくださってお金をいただくことで初めて、私たちの活動は継続ができます。“陥没”事業部門の人たちには、この意識が少し欠けていました。
赤字の事業部門が真剣でなかったわけではありません。むしろ、成績を上げようと皆、人一倍、頑張っていました。ただ、赤字になった理由を聞くと「アルミの価格が下がった」とか、「中国勢が強い」といった答えが返ってきていました。また製造部門からは「営業が小さな案件しか持ってこない」、営業部門からは「必死に取ってきた案件なのに、製造部門は半年先にしか作れないと言う」といった文句もよく耳にしました。
彼らの指摘は間違いではないでしょう。しかし、他者に責任を押し付けて終わりなら、その事業はもうたたまざるを得ません。そこで、「自分たちの仕事はどんなもので、誰からお金をいただいているのか」をもう一度考えてもらい、開発・製造・営業が一体となったチームで一緒に仕事をすることを意識してもらいました。私たちはこの体制を「創って–作って–売る」と呼んでいます。
―意識改革はどのように行ったのでしょうか。
岡本
商品別損益管理に変えました。それまでは開発・製造・営業がそれぞれバラバラに活動していたので、全体としてどんぶり勘定になり、各商品がどのくらい儲かっているのかがよく分からなくなっていました。そこで商品別管理にし、皆に共通のものさしを持たせて、損益を「自分たちの問題」として考えてもらうようにしました。
組織の形も、これは前社長の時代からですが、マトリックス型にしました。現在はBU(ビジネスユニット)リーダーが各部門をまたいで全体を仕切る形になっています。