OPINION3 自ら工夫する環境づくりや育成のコツ ジョブ・クラフトする人材は校則がない中学校で育つ?! 西郷孝彦氏 東京都世田谷区立桜丘中学校 校長
ジョブ・クラフティングにおいては、個々が主体性をもつことが欠かせない。
4年前に校則を全廃した東京・桜丘中学校では、生徒が先生と対話を重ねながら、自ら判断して行動している。
同校の取り組みからは、自ら行動や認知を変える、「工夫する人づくり」のヒントが垣間見える。
校則は「合理的でない」
桜丘中学校の職員室前の廊下には半円形のテーブルと椅子が点在しており、様々な理由で教室に入りづらい生徒の居場所になっている(写真)
「授業に出ない子には必ず理由があります。ここにいるよりも授業に出る方が絶対に楽しい。そう言える自信があるので、『授業に出たくなかったら出なくてもいいよ』と言っています。このスペースはオープンで人目があり、先生たちも声をかけやすいうえに、不登校の生徒同士のコミュニティができるのでいいですね」
そう話すのは桜丘中学校校長の西郷孝彦氏。この中学校には校則がなく、授業も出入り自由だ。たとえば帰国子女で英語が話せる生徒は中学生レベルの英語の授業に出てもつまらないため、英語の授業時間は図書室などで自習をして過ごす。
「それに、お母さんと喧嘩した生徒はイライラして、1時間目の授業には集中できません。大人も悩みごとがあったら仕事が手につかないですよね。それと同じです。子どもには解決できないこともありますが、クールダウンして自分で解決できた子は、また教室に戻ってきます」(西郷氏、以下同)
校則を廃止した理由は、「合理的であること」にこだわる姿勢にある。校則には合理的な理由がないもの、人権侵害になるもの、発達障害などの特性をもつ生徒にとって負担になるものがあったため、不登校になる生徒もいた。「靴下は白」など、合理的な理由のない校則から少しずつ減らしていき、先生たちが「校則がなくても大丈夫だな」と思えるようになった4年前にすべてを廃止した。
「合理的でないことを強制させられると思考力が落ちます。『こうしなさい』と強制されて、『なぜ?』『理由はない、そういう決まりだから』と言われる環境で育った子は、考える力がつきません。合理的な考え方をするためには、合理的な環境をつくることが必要なのです」
校則以外にも、一般的な学校では当たり前とされているものがここにはない。たとえば宿題は、生徒の学力によって簡単すぎたり難しすぎたりするため廃止した。定期テストも同様に廃止され、代わりに小テストがある。
「100点満点のテストを10回の小テストに分けると、勉強の機会が10倍になります。ほぼ毎日、何かの教科のテストがあるので、みんなよく勉強するんです。定期テストがなくなったことで最初は喜んでいた生徒たちも、結局以前よりもたくさん勉強することになったので、『だまされた』と文句を言っています(笑)。今はみんな慣れましたね」
小テスト後には希望者が再挑戦できる「チャレンジテスト」もある。20点満点の小テストで19点を取っても、残り1点のためにもう1回受けようとする生徒は少なくない。すると同じ場所を2回勉強することになり、さらに勉強の機会は増える。全学年で実施される模試も強制ではないが、生徒たちは「自分の偏差値を知りたい」と積極的に受けているという。