Opinion 1 働きやすさと働きがいの違い 貢献感と上司とのコミュニケーションが働きがいのカギ
どうすれば働きがいを取り戻すことができるのか。日本企業でそのカギを握るのは、職場である。職場でのコミュニケーションが、部下に達成感や成長感、そして貢献感といった働きがいに欠かせない感覚を与え、制度を生き生きしたものにする。
「働きやすさ」だけではやる気に火がつかない!
株主が企業に投資し、得るリターンが「株主価値」なら、働く人々が人的資源を投じ、そこから得られる価値が「従業員価値」だ。そして従業員価値には、要素として、「働きやすさ」と「働きがい」がある。とかく混同されがちだが、両者はそれぞれ別の価値である。ところが、従業員視点から企業を評価したと主張する調査を見ると、福利厚生やワークライフバランスなどに関する制度が充実した「働きやすい企業」がトップを占めることが多い。
働きやすさは、働く環境に依存する従業員価値である。「安全な労働環境」「安定した雇用」「公正な評価」「ハラスメントがない」といった条件のもとに成り立つものだ。現在、日本の大企業の多くでは、これらの条件はすでにある程度、整備されているといっていい。ワークライフバランスなども、その延長線上で求められる、より高次の「働きやすさ」だ。だが、働きやすさだけで総合的な従業員価値を測ることはできない。その組織に所属する幸福感や納得性は高められるが、従業員のやる気に火をつけ、絶やさず燃やし続けることはできないからである。もう1つの価値、「働きがい」とは、働く喜びを端的に表現した言葉である。心理学者のマーチン・セリグマンは、幸福感には、普通の幸せ(well-being)と真の幸せ(authentic happiness)とがあり、後者は自己充実感によってもたらされると述べている。この場合、自己充実感は、働きがいと同義と考えて差し支えないだろう。自己充実感を得るのは、たとえば次のような時だ。
・自分の能力を発揮する機会を与えられた時
・価値や意義を見出せる仕事に携わっている時
・自分にとっての意味を感じられる課題に取り組んだ時
これらは達成感、あるいは成長感、貢献感などにつながるものだ。またこれらが生まれるのは、仕事そのものを通じてであることがわかる。自己充実感は仕事環境などの整備による働きやすさだけで創り出すことは難しい。働くことの真の幸せは、仕事そのものの中に存在するのである。短期、中期の目標を達成するための努力を引き出すのがモチベーションであるとすれば、働きがいは長期的な夢の実現や、その原動力である努力や成長の基礎となる。あらゆる層の人材が、働きがいを感じることのできる組織は持続力があるといえる。