CASE.3 佐竹食品 一生懸命、仕事を楽しむ “楽しいスーパー”への道は 従業員が楽しく働くことから
大阪北部で食品スーパーを展開する佐竹食品では、「日本一楽しいスーパー」になるため、意欲的に働ける環境づくりに力を入れている。従業員の主体性を引き出すカギとなるのは、“教育”ではなく、“チューニング”だという。そのココロは。
「日本一楽しいスーパー」
大阪府の北摂(北部)エリアで、食品スーパー9店舗、業務用スーパー19店舗を展開する佐竹食品では、2008年から「日本一楽しいスーパー」を目標に掲げている。そのきっかけは、地元の夏祭り。原価50円のフランクフルトを300円で売る夜店に、大勢の人が嬉しそうに並ぶ様子を見た梅原一嘉社長は驚いた。
「スーパーでは、お客さんは、5円、10円でも安い商品を求めて、どちらかというとしかめ面をしながら毎日買い物をされます。でも夜店では、通常より高いものを嬉しそうに買っている。お客さんが“楽しさを買える”ことが、商売の基本なのですね」(梅原氏、以下同)
このことから「普段の買い物でも、お客さんが笑顔になれるように」と、「日本一楽しいスーパー」を目標に掲げたのだ。とはいえ、お祭りと違い、スーパーは顧客が毎日のように利用する場所。非日常的な演出ばかりでは飽きてしまう。永続的な楽しさとはむしろ、品揃えや商品の質、そしてお客様と店員とのコミュニケーションなど、小売店の基本的な要素を磨くことが、スーパーでの買い物を楽しくすることにつながる。「そのためには、現場で働く従業員自身が楽しく働けることが重要」(梅原氏)だという考えに至り、さまざまな取り組みを行うようになった。
ただし、楽しく仕事をするといっても、楽をするという意味ではない。「お金を稼ぐことは大変なことで“、楽な仕事”というのはどこにもありません。しかし、大変な仕事を楽しくすることはできます。きついこと、しんどいことを“参ったなあ”といいながらも、笑顔で頑張れる環境をつくることが大切なのです」
共通の価値観を育む企業理念
たとえ大変な仕事でも、自分の裁量で仕事ができれば、仕事は楽しくなる。「当社では、従業員の一人ひとりが商売人だと考えています。商売人というのは、いちいち上に伺いを立てずに、自分で判断して行動できる人。だから当社には、稟議書がありません。店長でもパートでも、お客さんが喜ぶと思ったことは、自身の判断でどんどんやっていいのです」
とはいえ、それぞれが好き勝手なことをすれば、企業としての一体感はなくなる。個人の裁量を広げつつ企業としての一体感を保つには、その行動が自社にとって望ましいものなのかを判断する“拠りどころ”が必要になる。その拠りどころとして、同社が選んだのは「企業理念」だ。
「“理念なんて念仏みたいなもん、100万回唱えたところで、売り上げなんか上がらんわい”と、以前は正直思っていました(笑)」考えが変わったのは、事業の拡大に伴って従業員が増え、全ての従業員の気持ちを把握できなくなった時だった。
「400人くらいまでは、コミュニケーションがとれていたのですが、それ以上になってくると、従業員の顔と名前が一致しなくなってきました。すると、“会長や自分が創業以来ずっと大切にしてきた思いを、このパートさんは理解してくれているのだろうか”と不安になってきたのです」