OPINION2 自発性や主体性を高める 「個人」だけでなく「組織」も成長するための ジョブ・クラフティングの在り方とは 高尾義明氏 首都大学東京 大学院 経営学研究科経営学専攻 教授
個人の取り組みとしてとらえられがちなジョブ・クラフティング。
これを組織の成長やエンゲージメント向上につなげていくためにはどんなことが必要なのだろうか。
組織開発に詳しく、ジョブ・クラフティングについても様々な発信をしている、高尾義明氏に聞いた。
ジョブ・デザインとジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングという言葉が、日本のHR 分野で知られるようになってきたのは、ここ1~2年のことだ。それ以前から、仕事を人間らしく経験し、モチベーションを保つための取り組みを表す言葉として、「ジョブ・デザイン」がある。両者の違いについて、首都大学東京大学院経営学研究科教授の高尾義明氏は次のように話す。
「従業員が内発的なモチベーションを高めるための方法として、1970年代から使われ始めた言葉が、ジョブ・デザインです。ただし、これは基本的な考え方として、部下のモチベーションを高めるための施策をマネジャーがつくって与えるという、いわば『上から目線』のものでした。これに対してジョブ・クラフティングは、マネジャーのもとで働いている人もそうでない人も、自ら仕事をクラフト、つまり、つくりあげて主体的に仕事にかかわることによって、モチベーションを高め、やりがいを見つけることを目的としています」
ジョブ・デザインは、考えようによっては「やらされ感」がつきまとうが、ジョブ・クラフティングは、もっと内発的かつポジティブに人をとらえていることが特徴だ。
なお、このコンセプト自体は、2000年代初頭にアメリカで提唱され、組織と個人の行動をポジティブな視点からとらえようとする「ポジティブ組織行動」という大きなムーブメントのなかで表出してきた。
ジョブ・クラフティングによる仕事のとらえ方
ジョブ・クラフティングの原点の1つは、病院の清掃スタッフの仕事のとらえ方に関する研究に由来するという。病院で「清掃する」という仕事は、「自分の担当する場所をきれいにする」ことだととらえるのが一般的だ。だが、「患者さんの治癒の手助けをしている」と、自分の仕事をもっと拡大的にとらえている人が少なからずいたという。清掃というタスク自体は変化することがなくても、たとえば病室の清掃をする際に患者さんにかける言葉をよりポジティブなものに変えたり、患者さんのことで気づいたことを看護師に伝えたりすることはできる。そのことを「治癒の手助けをしている」ととらえたわけだ。
「自分のタスクをきちんと遂行するという前提がありますが、病院の清掃スタッフのように、自分なりに『こういう意味がある』ととらえることができれば、一見同じことをしていても、仕事の見方を変えるという認知的なジョブ・クラフティングをしたことになります。これは、発想が飛躍しすぎているようにも思えますが、ジョブ・クラフティングという見方に立てば、治療や薬の処方を行うわけではない清掃スタッフが患者の治癒に一役買っているととらえることは、間違っていないのです。一方で、『仕事はあくまで生計のため。その範囲内で自分なりにやり方を工夫する』ことがジョブ・クラフティングに当てはまらないわけではありません。要は、『自分で決められる』ということがポイントです」(高尾氏、以下同)
ジョブ・クラフティングの喚起が重要な職種・階層とは
ジョブ・クラフティングを職種や階層別に考えた場合はどうか。高尾氏によると、自発性や創造性が普段から求められるデザイナーのような仕事は、日常的に自分の仕事をクラフトしているようなものなので、ジョブ・クラフティングを意識する必要性は薄い。それに対して、生産やサービスの現場などで繰り返しの作業を何時間も続けるような職種では、自分の仕事をどう面白くするかと考える必要性は大きくなるという。
階層についても、タスクの範囲がきっちりと決まっていたり、ルーティンの仕事が多かったりする段階では、マンネリを打破したり、仕事を面白くするにはどうすればいいかということが自身の課題として見いだしやすい。一方、階層が上がると、権限が大きくなり、裁量権が増えるため、ジョブ・クラフティングをあえて意識する必要性は薄れていく。つまり、制限があると思えるような職種や職位の人の方が、ジョブ・クラフティングのしがいがあるということだろう。