OPINION2 グローバルで共有するには 理念浸透の本質は、 社員一人ひとりへの“動機づけ”
21世紀に入って以降、理念の再定義を図る企業が増加している。
その理由のひとつは、多数の企業のグローバル展開にあるというのは
野村総合研究所上席コンサルタントの柳澤花芽氏。
日本人のみならず、言語も習慣も考え方も異なるナショナルスタッフと
どのように理念を共有し、浸透させていけばいいのか。
そのプロセス、そして前提となる“ 動機づけ”について、同氏が解説した。
日本企業の経営理念の位置づけ
もともと日本企業は、伝統的に経営理念の共有を大事にしてきたといえる。例えば、トヨタ自動車やパナソニック、ソニーといった大企業は、創業時から高い志や理念を掲げており、それを社内外へアピールすると同時に、経営の在り方及び社員の日常の仕事の「道しるべ」として位置づけてきた。こうした経営理念重視の姿勢は、ある種DNAのような形で、日本企業において脈々と受け継がれてきたように思う。
ところが、日本でも欧米式の経営を取り入れていく中で、こうした状況に変化が起こってきた。特に1990 年代後半から2000 年代にかけて、企業には株主に対する説明責任が強く求められるようになり、ガバナンス強化や成果主義の導入など、責任と権限を明確にする動きが活発になっていった。もちろんそれ自体は決して悪いことではないのだが、その過程で、短期的な成果がより強く求められるようになり、多くの企業で長期的な視点をベースとする経営理念は形骸化し、一時的に忘れられてしまったのである。
だが2000 年代後半に入ると、日本企業の間で再び経営理念を見直す動きが広がってきた(図)。長期にわたるデフレや、2008 年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などを背景に、予測が困難でかつ変化の激しい環境にあっては、短期的な成果を追求するだけではなかなかうまくいかないという反省もあり、改めて経営理念への関心が高まったわけだ。
時代に即した再設定も活発化
実際に、2000 年代以降は、多くの有名企業で、「○○ウェイ」といった形で、盛んに経営理念の再定義や再浸透が図られている。このような新しい経営理念の特徴は、従来の日本企業の経営理念よりも、分かりやすい表現になっているケースが多いということだ。
というのも、こうした新しい経営理念の再構築や再設定に最初に取り組んだ企業の多くは、グローバルに展開していて、全社員の半数近くが外国人というような企業である。このような企業で、昔ながらの理念を阿吽の呼吸で伝えようとすること自体、不可能だ。また、旧来の理念は、その概念も非常に日本的なので、単純に現地の言葉に置き換えて意味を伝えようとしても、なかなか伝わらない。
そこで、もともとの経営理念の本質は失わずに、共有する対象が外国人などにも広がっていることや、時代の変遷も意識したうえで、表現を変えているのである。そのため、2000 年以降に再定義された経営理念は、年齢や国籍を問わず誰にでも分かりやすく、また旧来からの言葉をそのまま使用する場合にも、理解しやすいように詳しい説明をつけるなど、工夫をしている。
グローバル企業の理念浸透
しかし、たとえ分かりやすい経営理念にしても、広く海外に事業を展開している企業が、経営理念を現地の従業員まで浸透させるのは、難しい。原因は言語、そして就労意識を含めた文化の違いにある。そのため、本質的な意味も含めて理念を海外に伝えることに苦戦している企業は多い。