OPINION1 鍵はタスク・人間関係・認知の工夫 ジョブ・クラフティングでストレス低減・生産性向上を! 櫻谷 あすか氏 東京女子医科大学 医学部 衛生学公衆衛生学講座 助教
組織行動論の研究者らが提唱した「ジョブ・クラフティング」は、産業心理分野でも今、注目を集めている。
具体的には何を指すもので、どんな効果があるのか。
公衆衛生学の観点から研究や研修を行う櫻谷あすか氏に聞いた。
やりがいアップやストレス減に効果
最近よく聞かれるようになってきた「ジョブ・クラフティング」とは何だろう。労働者の心の健康について、産業保健分野の介入研究や企業向け研修を行う櫻谷あすか氏は、「自らやりがいをもって働けるように、働き方を工夫すること」と定義する。
「“仕事に関する工夫”は、ビジネス本などでも多く紹介されていますし、そうした知識をもつ方も最近は多くいらっしゃいます。ただ、自身のやりがいにつながるような工夫(ジョブ・クラフティング)を実践するには、自らの働き方を見直し、日常であらためて意識することが重要になります」(櫻谷氏、以下同)
ジョブ・クラフティングは、米国の研究者エイミー・レズネスキーとジェーン・E・ダットン(組織行動論)により提唱された概念だが、近年、産業心理でも重要だといわれるようになってきたという。
2000年代前半ごろまで、メンタルヘルスの取り組みの多くは、うつ病などのメンタル不全の抑制や、罹患した社員の職場復帰など、不調の低減に焦点が当たりやすかった。しかし、ネガティブな要因を低減する一方で、予防の観点から「ポジティブメンタルヘルス」の重要性が近年、あらためて注目されるようになった。
そこで櫻谷氏は、労働者を対象としたプログラム開発をつうじてジョブ・クラフティングの効果を検証し、研修マニュアルを慶應義塾大学総合政策学部の島津明人教授と2019年3月に作成したという。
「これまでの研究で、ジョブ・クラフティングを自ら積極的にしている人の方が、仕事にやりがいを感じて能動的な働き方ができていたり、心理的なストレスが低く、健康や仕事のパフォーマンスにも良い影響があったりすることが報告されています。働く人の心身の健康とパフォーマンス向上の両面のために、ジョブ・クラフティングは効果的な可能性があるのです」
「自らやりがいをもって働けるように、働き方を工夫すること」――この「工夫」は、
①タスク(仕事のやり方の工夫)、
②人間関係(周りの人への工夫)
③認知(考え方の工夫)
の3つの視点で分類できると櫻谷氏は解説する(図1)。
❶タスク:仕事のやり方の工夫作業の仕方の工夫でやりがいや自信、創造性の向上へ
第1は、作業に対し工夫を加え、より仕事の中身を充実させたり、自身の働きやすさを向上させることである。
たとえば、スケジュール管理やToDoリストの作成を工夫して働きやすさを高めたり、短期と中長期の2段階の目標立案をすることで仕事に向かいやすくする、などが例として含まれる。仕事に集中しやすくなる、仕事の進捗を把握しやすい、自信になるといった効果が期待される。
フレックスタイム制度を利用して、朝に自分がやりたい仕事をする時間を確保する、という例のように、仕事への思い入れや創造性を生む取り組みも有効だ。能動的に仕事と向き合う機会を増やすことで、より前向きな働き方ができる。