OPINION3 若手社員にもジェロントロジー教育を 周囲の理解と柔軟な体制で シニアが活躍できる職場に
シニア社員が雇用延長で働き続ける場合、周囲の理解や気遣い、
作業環境が、シニアの働く意欲に大きく影響する―そう話すのは、
ジェロントロジー(老年学)を専門とする崎山みゆき氏だ。
シニアにはどのような特徴があるのか。また、意欲的に働いてもらうために効果的なこと、
注意すべきことは何か、話を聞いた。
多角的な老年学の視点を
高齢者というだけで、知識・経験が豊富だから優れている、あるいは気力や体力の衰えが目立つから役に立たない、と見なされることが多々ある。このような年齢による差別をエイジズムという。
エイジズムには「偏見」と「制度」の2つがある。前者には高齢者を弱い、幼い、頑固などと捉えるもの、後者には高齢者が働けないような年齢制限や昇給できない仕組みが挙げられる。
肯定的なエイジズムとしては、年長者を組織の長とするべきという年功序列的な考え方や、高齢者は若者より穏やかで優秀だという見方が該当する。
しかし必ずしも全員がそうであるはずがない。高齢者はひとくくりにできるものではなく、個人差があるのは当然のことだ。だが、日本では高齢者に対する理解が十分ではないため、思い込みによるエイジズムが激しいと考えられる。
したがって、職場においても、まずはシニア人材について周囲、そしてシニア本人が正しく理解する必要がある。シニアを雇用する際も、活かすべきはどんな特徴でどんな点に注意すればよいのか、客観的でフラットな見方ができるようにならなければならない。
そこで役に立つのがジェロントロジー(老年学・加齢学)の視点である。これはギリシア語の「老齢」を意味する接頭語geront(o)と、「学問・研究」を意味する接尾語logyを合わせた言葉だとされており、医学や生理学、社会学、心理学、栄養学などの多角的な知見から、加齢に伴う生涯発達や人間関係、政治経済などの課題を総合的に捉える学問だ。
シニアが活躍できる職場をつくるには、このジェロントロジーの理解が欠かせないだろう。そこでまず、ジェロントロジーの視点から、知っておくべきシニアの特徴やリスクとその対応策を紹介したい。
①身体的特徴と対応策 本人が自覚し、対処法を共有
年齢を重ねると、どうしても身体面の衰えは出てくる。例えば骨粗しょう症のリスクが高まり、骨折しやすくなる。視力や聴力、また記憶力の低下により、ミスが増える傾向もある。さらに加齢と共に敏しょう性が低下し、作業場などでは事故の危険性も高くなる。危ないと気づいても避けられず、落下物でケガをしたり、足を踏み外したり、高所から転落したりするリスクもある。
このような身体面の衰えによるリスクには、どのように対応すればよいのか。まずはシニア本人が自分ごととして、体力の低下・衰えを自覚し、過信せず慎重に行動すること、またミスやケガを防ぐ具体策を講じることが重要だ。研修などで本人に自覚を促すことに加え、起こりうる業務上のリスクと対処法を職場であらかじめ整理し、共有しておくとよいだろう(図1)。