CASE2 三井化学|素材はクリエイティビティの源泉 素材とデザインのコラボレーションの場 MOLpで生まれた新たな価値とは 松永有理氏 三井化学 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 課長
三井化学の有志団体「MOLp」は同社の機能的価値と感性的な魅力を再発見しようという組織横断型の活動。
素材とデザインを掛け合わせた新たな視点から、多様な提案を生み出している。
MOLp の活動により変わったこと、また、デザインの力について話を聞いた。
素材×デザインの可能性
様々な製品の原料になる「素材」を扱う三井化学。素材というと、その機能ばかりが重視されがちだが、そうではなく素材の感性的な面に目を向け、新たな価値を生み出していこうという有志団体が2015年、社内に立ち上がった。それが、素材の魅力ラボ「MOLp(Mitsui Chemicals MaterialOriented Laboratory)」である。
発起人である、同社コーポレートコミュニケーション部の松永有理氏は、立ち上げの目的をこう振り返る。
「MOLp は、弊社の素材と技術の機能的価値や感性的な魅力を再発見し、そのアイデアやヒントをシェアしていくための組織横断型のオープン・ラボラトリー活動です。素材は社会や人のくらしを陰ながら支える黒子のような存在で、我々もそこに誇りをもっているのですが、黒子だからこそ価値や魅力は伝わりにくい。また、素材にコンセプトがあっても、それが末端まで伝わっていかないのです。その問題はコミュニケーションにあると考え、コミュニケーション変革を通じて自分たちの仕事の価値を再認識したり、社内外に発信したりできる場として立ち上げました」
MOLp が「デザイン」をテーマに据えたのは、デザインがもつコミュニケーション機能に着目したことと、素材メーカーとその対極にあるデザインとをコラボレートさせることで、新しいものが生まれる可能性が高いと考えたからだ。
「素材の価値といえば、まず機能面が求められますが、今のモノづくりは技術そのものよりもコンセプトメイキングが生み出す価値の方が大きく、素材も機能だけでは選ばれにくくなってきました。そこで、デザインの力を活用して、素材がもつ機能的な価値だけでなく、より感性的な魅力まで『見える化』して伝えることができるのではないか、という目的もありました」(松永氏、以下同)
デザインシンキングのアプローチで活動
メンバーは社内有志で構成され、技術・非技術系あわせて20~30名ほど。月に半日、業務時間内に活動を行うが、就業時間後や休日に活動することもある。強制力はなく、参加したい人は参加すればいい、辞めたい人は辞めるという、まるで部活のような、ゆるく自由度の高い場だ。
MOLp を様々なコミュニケーションとアイデアが生まれる場とするため、仕掛け人の松永氏はクリエイティブパートナーとして、デザイナーの田子學氏(OPINION3)を迎え、プロジェクトの求心力を高めた。
「まずは田子さんからデザインの視点やフレームワークを学び、自分たちの業務についてより良く伝えられるように訓練しました。たとえば、研究者はふだん素材を、何度で溶け出すか、何度で柔らかくなるかといった物性の視点からしか見ていません。でも、それでは素材の紹介として面白くない。魅力が伝わらないんです。ですから、素材も感性やデザインの視点でとらえる田子さんの発想は、研究者たちにとってかなりの衝撃でした」
MOLpの場は、①デザインシンキングを学び、実践する②コミュニケーションの仕方を学び、実践する③プロジェクトマネジメントの回数をこなす、という3つのコンセプトを掲げている。立ち上げ当初は、夏合宿でデザインマネジメントやデザインシンキングについて学ぶ機会を設けたり、その後の活動でも、自社の製品でどんな魅力がアピールできるのか、ディスカッションを重ねるとともに、実験や試作を繰り返した。