OPINION3 デザインを“自分ごと”としてとらえる デザインを経営の中枢に据え 想いをもって壁を突破せよ 田子 學氏 エムテド 代表取締役 アートディレクター・デザイナー/慶應義塾大学 大学院 SDM 特別招聘教授
混沌とした時代にあって、企業がイノベーションを起こし、成長していくためには、「デザイン」をどうとらえるべきか。
デザイナーとして様々なプロジェクトに携わり、デザインの重要性を示してきたエムテド代表取締役の田子學氏に聞いた。
デザインの本質は「意匠」ではなく「設計」や「計画」
企業の戦略において、「デザイン」が目標達成の有効な手段になるという認識が広まりつつある。しかしその一方で、デザインというものを誤解しているのではないか、と思うことがしばしばある。
デザインは、日本では、色や形を決める「意匠」という限定的なとらえ方をされることが多い。確かに、かつてはそういう見方が一般的だった。“狭義のデザイン”としてそうしたイメージをもつことは否定しないが、それはデザインの本来の意味ではない。
デザインとは、社会・経済活動において、人の感情を揺さぶるエモーショナルな作用を含めて、1つの形態や形式にまとめ上げる総合的で創造的な「設計」、あるいは「計画」である。
デザインの語源をひもとくと、デッサンと同じく、「記号化」というのがもともとの意味だ。たとえば、人々をある方向に誘導したい場合、「こちら側に目的地があります」と文章で示す方法もあるが、それではその言葉を読める人にしか伝わらない。では、何カ国語も併記するのか。いや、そんな非効率なことをしなくても、矢印を1本描くだけで、どちらに進めばよいか伝えることができる。記号化するうえで一定のセンスは求められるが、大事なのは図柄の色や形ではない。
つまりデザインとは、目的に向かい、どう工夫してどう表現するかということである。仕事やプロジェクトに置き換えれば、デザインとは一人ひとりが自分ごととしてとらえるべきものであって、決してデザイナーだけが関与するものではないということだ。
デザイナーは右脳のエンジニア
ではデザイナーは何をするのかというと、プロジェクトの全体を見て総合的にデザインするプロジェクトマネジャー的な役割が挙げられる。ただし、従来型のプロマネとは少し異なる。別々のものを結びつけたり、今までにない方法を思いついたりするのがデザイナーの強みなので、決まったプロセスを遂行するのではなく、新たなものを生み出しながら創造的に設計・実現していく。この過程でイノベーションの創出が期待できるため、今、「デザイン」に対する注目が高まっているのだ。
先ほど、デザインについて、「人の感情を揺さぶる」と述べたが、もし使い手がロボットであるならば、感情に訴える必要はもちろんない。しかし、使うのは人間である限り、人間が「なんかいいよね」と感じることが大切だ。そうした数値で測れない人の気持ちを汲み取るのも、デザインの特長なのである。
しかし、デザインは「アート」ではない。アートは、個人の思想や情熱に基づく芸術作品。誤解を恐れずに言えば、ひとりよがりともいえる。一方、デザインは、多くの人の共感を得ながら、社会全体をより良いものにしていくためのものなのである。