INTERVIEW1 「 24時間をデザインする」をスローガンに 指導者自身の本気と成長が 子どもの夢中と自ら考え行動する習慣を育てる 平岡和徳氏 宇城市教育委員会 教育長
公立高校でありながら50名近いJ リーガーを輩出する熊本・大津高校サッカー部で25年以上監督を務めるのが、高校サッカー界屈指の名将・平岡和徳氏だ。
現在は熊本県宇城市教育長という重職を担いつつサッカー部の指導にあたる同氏に、「年中夢求」や「考動力」を追求する指導法、そして育成に対する思いを聞いた。
「年中夢求」であきらめない才能を磨く
―「私の仕事は人づくりであり、サッカーやスポーツはそのツール」と断言されています。そのお考えについて、お聞かせください。
平岡和徳氏(以下、敬称略)
社会に出て一番大切なのは、苦しいときに何ができるか、ということだと思っています。そこで求められるのが何度でも前向きにチャレンジする「あきらめない才能」です。その才能を磨くことができるのが、スポーツ最大の財産だと確信しているので、サッカーを通じて、生徒たちにあきらめない才能を磨いてほしい。
そのために大切なのは、「夢中になる」ということです。夢中で頑張れば将来できるようになるのに、「今できない」だけで、すぐあきらめてしまう子どもが少なくありません。だから、生徒には繰り返しこう言うんです。「“もうダメだ”の先にいる“すごい自分”を意識しよう」と。
―平岡さんが大切にされている「年中夢求」という言葉にも、その思いがこめられていますね。
平岡
「年中夢求」とは、年がら年中、夢を求める、時間を忘れて無我夢中で取り組むといった意味です。スポーツ選手に限らず、人は成長するとき、最初は「やらされる」段階から始まって、次に興味をもって「自分からやる」段階に移り、そしてもっと良くなろうと「努力する」段階へ入っていく。通常はそこで終わりですが、実は努力の先に「夢中になる」という段階があります。
私が大津高校サッカー部で生徒にかかわる時間は約1,000日間。子どもたちには、その1,000日を努力するだけで終わらせず、「夢中になる」時間にしてほしい。夢中になって、はじめてたどりつける成長があるし、夢中になることで、社会で求められるあきらめない才能も養われるからです。
―大津高校サッカー部は150人以上の部員を誇り、インターハイや高校選手権の常連です。しかし、公立高校だけに一般入試を課しており、スカウトで有望選手を集めることは一切されないそうですね。平岡
自分で選んで決めると本人に責任が生まれ、あきらめない才能も育ちやすいんですよ。だから「来る者は拒まず」。私は、生徒を選ぶのではなく、生徒から選ばれる環境づくりに徹してきました。
とはいえ、最初からやる気のある生徒ばかりだったわけではありません。私が27歳で赴任したころのサッカー部には、体育コースの生徒が多く、なかには「俺はサッカーをしに来たんだから授業には出ない」と、寮で寝ているやつもいましてね。とにかく、生活習慣がまるでなってない。「これじゃ勝利の女神も微笑むわけがないだろう」と言って、挨拶や身なりを徹底し、汚れた寮の床を生徒と一緒に雑巾で拭き上げるところから始めました。まさにドラマ「スクールウォーズ」のノリでしたね(笑)。