OPINION3 中原孝子氏 「 クロスオーバーの発想」や「定義化」が不可欠 求められるのは“プロフェッショナル” データ・ドリブン時代の人事スタイルとは 中原孝子氏 ATD 認定CPLP/インストラクショナルデザイン 代表取締役
ここ数年、「データ人事」がホットワードとなっている。
タレントアナリティクスなど、マネジメント領域を中心に期待が高まるなか、活用につなげるには何が必要なのか。
今年、データ活用と人事戦略をテーマにした書籍の翻訳を手掛けた、中原孝子氏に話を聞いた。
ネット上の“足跡”をどう活かす
皆さんも、Google の人事戦略におけるデータ活用の事例は、ご存知だろう。同社は、たとえばマネジャーの価値を定量化し、優れたマネジャーはチームのパフォーマンスだけでなく、従業員のエンゲージメントやリテンション、生産性にもポジティブな影響を与えていることを見いだした。もともと創業期のGoogleは、「優秀なメンバーがそろう組織にマネジメントは不要」と、中間管理職のポジションを廃止した時期があるが、データによりマネジャーの価値が明らかになったことで、マネジャー教育と優秀なマネジャーを称賛するしくみを手厚くしたのだ。
この事例のように、人事戦略におけるデータ活用は、もはや欠かせないものになりつつある。私が今年訳出した、英国のコンサルタント、バーナード・マー著の『データ・ドリブン人事戦略』(日本能率協会マネジメントセンター刊)でも、“データ・ドリブン”、つまり、データ志向の人事戦略の重要性が説かれている。
マーがそう主張する背景には、当然ながらIT の発達がある。私たちは日常、メールにビジネスチャット、オフィスへの入退室や勤怠の記録、Webサイトの閲覧にSNSの投稿やリアクションなど、無数の“足跡”を残している。またセンシングデバイスを身につければ、1日の活動量や行動範囲、だれとどれだけ直接コミュニケーションをとったかなども知ることができる。これはもちろん社内に限った話ではなく、いまは世界のありとあらゆるもののデータを取ることが可能になりつつあるのだ。
これまで人事の世界は“人”志向の傾向が強かった。データといっても、せいぜい人事評価やサーベイの結果、ラーニング状況など、それぞれを単独で見ていたにすぎない。しかし、“足跡”も含めたデータを組み合わせてアナリティクス(分析)とメトリクス(測定基準となる指標データ)を使って、これまでにない考察を繰り広げていこうというのが、“データ・ドリブン人事戦略”である。
これからの人事の役割は
ビジネス全体のデジタル化、自動化は、人事の実務にも影響を与えている。たとえば労務管理や人事上の事務手続きなどは、RPAが得意とする分野だ。これまで人事はいわゆる事務作業に時間を割いてきた側面があるが、すっぽり丸ごと機械化されるときがもうそこまで迫ってきている。
さらに、タレント情報をデジタルデータでもつようになったことで、管理をフロントラインに任せられるようになった。実際にマイクロソフトでは、四半期ごとに個人が習得したスキルや経験を「現場」でデータ入力し、担当業務に求められる要件の見直しを行っているという。タレントマネジメントやパフォーマンスマネジメントは人事主体から現場主体へと移るのも時間の問題だろう。
だが、テクノロジーにより人事の仕事が“無くなる”ことはないはずだ。業務をつぶさに見ていけば、機械に取って代わられるものは存在するだろうが、人事そのものが、人の手から離れることはあり得ない。なぜなら、データが示す事実は全体的な傾向にすぎず、その吟味と検証は人の知性を必要とするものだからである。