CASE 3 カルビー 自ら手を挙げる女性が増えていく 挑戦できる土俵を整え、仕組みと理解で支える
「3年後のキャリアが思い描けますか?」
この質問に対し、「描ける」と回答した女性はほぼ10人に1人だった―
そんなカルビーが大きな変化を遂げている。
時短勤務役員が登場したばかりでなく、時短勤務の従業員が独自チームを立ち上げるなど、幅広い層で女性が輝く、同社の取り組みとは。
● 推進のきっかけ 見えない「遅れ」に気づく
2015 年3月、経済産業省主催の「ダイバーシティ経営企業100 選」を受賞。さらに「女性活躍推進に優れた企業」として、経済産業省・東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ銘柄」に2014、2015年と2年連続で選ばれたカルビー。
だが6 年前、ジョンソン・エンド・ジョンソンから松本 晃氏を会長兼CEOとして迎えた当時、女性管理職比率はわずか5.9%だった。これを見た松本氏は「この会社、1世紀遅れているね」と言ったという。
メディアでも取り上げられ、話題になった一言だが、現在ダイバーシティ委員会委員長を務める高橋文子氏は「言われたほうは自覚がなく、『なんで?』という感じでしたね」と苦笑いする。
「当社はもともと創業家が経営してきたこともあり、家族的な社風が濃厚なのです。男性上司は女性部下に優しく、『育児休暇、どんどん取って』『時短勤務、どうぞどうぞ』という雰囲気。特に女性の発言力が弱いということもない。自分たちが差別されているなんて考えてもみませんでした」(高橋氏)
しかし、結婚・出産した女性が職場復帰した後、従前と同じパフォーマンスを発揮できる仕組みは当時、まだなかった。例えば、工場でオペレーターとして働いていた女性が産後、育児短時間勤務を取る場合、清掃などの間接業務に担当変更するしかないケースが多々あったという。
「そんな状況を前にしても、みんな『フルタイムで働けない以上、仕方がないよね』と考えていた。ミスマッチをミスマッチと捉え、改善しようという動きはありませんでした」
松本氏の一声をきっかけに女性の力を引き出すチャンスを失っていたことに気づいた同社は、一大改革に乗り出した。
● 具体策1 3つの部会でトータルに改革
2010 年4月、社長直轄の組織として「ダイバーシティ委員会」が設立された。当時のメンバーは、全国のグループ会社から集まった15人(女性12人、男性3人)。
何から手を付けていいか、当初は戸惑っていたメンバーたちだったが、まずは「ダイバーシティに関する意識調査をする」、「既存の両立支援制度の周知を徹底する」、「イベントを開催する」の3つを目標に掲げ、それぞれについて、①「アンケート部会」、②「ハンドブック部会」、③「イベント部会」をつくり、活動をスタートした。
アンケート部会の調査で得た結果は、松本会長の言葉を裏づけるものだった。「3年後のキャリアが思い描けますか?」という質問を全従業員に行ったところ、20 代以上の男性の約3割が「描ける」と回答したのに対し、女性は1割程度にとどまったのだ。キャリアの展望について、ポジティブに捉えていない女性の割合が多いことが判明した(図1)。