Column 世界に実力を見せに行く! 五輪に挑む大田区の町工場の挑戦
“世界を相手にビジネスを仕掛けられること”、そして、“共通基盤をつくり協働すること”。これらのグローバルマインドセットを体現しているのが、東京都大田区内の中小製造業が集まり取り組む「下町ボブスレー」のプロジェクトだ。“待ち”の姿勢をやめて、世界に技術力をアピールする“攻め”の姿勢が、人々を魅了し、町おこしにまでつながったプロジェクトを紹介する。
ボブスレーのそりをつくって五輪へ
冬季オリンピックの競技種目の1つ、ボブスレー。2人または4人で専用のそりに乗り、氷を張った曲がりくねった専用コースを滑走してタイムを競う。最高速度は時速130 ~ 140キロメートルに達し、その速さから“氷上のF1”と呼ばれる。カーブでの動加速度は最大5G、1.7トンもの負荷がかかる、苛酷な競技だ。
ボブスレー用のそりは、鉄製のシャーシ(骨組み)に、ジェット機やレーシングカーなどにも使われているCFRP(炭素繊維強化プラスチック)でつくられたボディを取りつけたもので、シャーシの前方と後方の左右に設置された4枚のランナー(アイススケートの刃のようなもの)で滑走する。前方のランナーはハンドルで左右に操作でき、停止用のブレーキも備えている。
ボブスレーの人気が高く、強豪国の多い欧米では、フェラーリ(イタリア)、BMW(ドイツ)、NASA(アメリカ)といった自動車メーカーや航空宇宙関連機関が代表チームのそり開発を支援している。一方、日本代表チームは、これまでそり開発を支援する企業等もなく、海外から中古そりを調達して改良し、競技に臨んでいた。
そうした中、2012年12月に行われたボブスレー全日本選手権で、初の国産そりに乗った女子チームが優勝し、大きな注目を集めた。そのそりこそ、大田区の町工場の有志が中心となって開発した「下町ボブスレー」だった。
“待ち”の姿勢からの転換
なぜ、大田区の町工場が集まりボブスレーを開発することになったのか。下町ボブスレーの運営をサポートする大田区産業振興協会 事業グループ 広報チームの松山武司氏は次のように話す。
「大田区には、約4,000の町工場が集積しています。従来は、待っていれば注文がきましたが、現在は、いくら高度な技術力があっても“待ちの体質”では生き残れない時代になりつつあります。また、大田区の町工場が大手メーカーから請け負うのは、コアな部品部分が中心で、自分たちで完成品をつくることはほとんどありませんでした。そのため、グローバルに通用する製品をつくっているにもかかわらず、守秘義務などもあり、高度な技術力を外に発信する機会がありませんでした。
そんな中で、当協会の職員が完成品をつくって大田区の技術力を広くアピールすることを思いつき、いくつかの企業に『ボブスレーをつくりませんか』と声をかけたのです」
大田区の町工場は、その高い技術力で国内メーカーの産業機械の部品などを数多く開発・製造してきた。しかし、国内メーカーの需要が先細りする中で、広く海外から注文を受けなければならない。そこで着目したのがオリンピックだった。オリンピックで目立つような製品をつくれば、世界中から注目が集まり、技術力をアピールできる。そうして、冒頭で触れたように国産そりのなかったボブスレーに行き着いたのである。