INTERVIEW5 「修造チャレンジ」のメンタルコーチが解説 まずは、自身のメンタルの特性を見極めよ 悩むところはとことん悩むメンタルトレーニング法 佐藤雅幸氏 専修大学 スポーツ心理学 教授/同 スポーツ研究所 顧問
テニスのジュニア選手を育成する「修造チャレンジ」で、創設時より20年以上にわたり子どもたちのメンタルサポートの責任者として活躍する佐藤雅幸氏。彼が定義するメンタルとは。
また、メンタルを強化するためにはどうすればよいのか、話を聞いた。
大坂選手のメンタルに効いたカウンセリングマインド
―心・技・体のうち、心の部分が成長したことで一気に世界の頂点に駆け上がったアスリートといえば、女子テニスの大坂なおみ選手の例が記憶に新しいです。以前は感情にムラがあり、コートで怒りを見せることも少なくありませんでしたが、何が彼女を変えたのでしょう。
佐藤雅幸氏(以下、敬称略)
前コーチのサーシャ・バイン氏のサポートが大きいですね。女子プロテニスでは試合中、選手がコーチを呼んでアドバイスを受ける「オンコートコーチング」が認められる試合があります。話している内容は、マイクを通じて視聴者にも伝わりますね。短い時間でのコーチングですから、なかには一方的に指示を伝えるだけのコーチもいますが、サーシャは、劣勢に立った大坂選手に呼ばれると、まず「どうしたんだい?」と優しく問いかけ、折れかけた心の声に耳を傾けるところから始めていました。そして彼女が落ち着きを取り戻し、「私はどうすればいい?」と聞いてきたら、そこではじめてアドバイスを口にするのです。技術や作戦の指示よりも、まずはカウンセリング(傾聴)。いまはコーチ関係は解消していますが、大坂選手のメンタル面には、サーシャのアプローチがよく効いていましたね。
―佐藤教授は現在、テニスのジュニア選手を育成する「修造チャレンジ」でメンタル面をサポートされていますが、そのなかでも、サーシャコーチのような“ カウンセリングマインド”をもったメンタルトレーニングを重視されています。
佐藤
何より大切なのは、まずは選手の話をよく聴くことだと考えています。選手はいまどんな気持ちなのか、何をしようとしているのかといった選手の話に耳を傾けるのです。どんなに選手が強くなりたいと訴えてきても、風邪を引いて弱っているときにハードトレーニングをしてはいけませんよね。まずは身体を癒さなければなりません。それは、メンタルも同じです。試合中に限らず、勝てなくて悩んでいる人や落ち込んでいる人は心が弱っている、マイナスの状態なんです。ですから、その声に耳を傾け、マイナスをゼロに戻すことが最優先です。
コーチはつい、マイナスからプラスへ一気にもっていこうとしてしまいがちですが、弱っている相手に押しつけるのは逆効果です。心に響かないし、やる気も起きないでしょう。「悩むこと」を否定するのも間違いです。勝ちたいから悩むのであって、悩まない人は伸びません。
ポジティブの塊のような松岡修造君も、素顔はとても繊細で神経質です。彼が悩みもがき苦しむ姿を、私はたくさん見てきました。悩んでいるときは弱い自分やダメな自分と向きあって、とことん悩めばいい。その行為そのものが、精神力を鍛えるためのメンタルトレーニングともいえます。