第36回(前編) “答えを与えない指導”が考える人材を育てる! 世界で活躍するサッカー選手は いかにして生まれるのか? 上野山 信行氏 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
ガンバ大阪でコーチ育成に携わる上野山信行氏は、宮本恒靖、稲本潤一、安田理大、宇佐美貴史ら世界で活躍する多くのサッカー選手をユース時代から育てたサッカー指導者だ。
上野山氏の長年来の知己、ヤフーの本間浩輔氏は、“一流選手を育てる極意”には企業における人材育成に通ずる点が多い、と語る。上野山氏、本間氏、そして中原氏のスペシャル鼎談を2回に分けてお届けしよう。
問いかけて考えさせる
中原 淳氏(以下、中原)
僕は体育が苦手だったせいか、スポーツの世界に対して、根性や精神論ばかりで「言葉がない世界」というイメージを強く持っていました。ところが、本間さんから薦められた上野山さんのご著書『日本のメッシの育て方』(経済界)を読んで衝撃を受け、そのイメージが大きく変わりました。上野山さんの選手育成は、自分が取り組んでいる人材育成の世界にかなり近いように感じています。ですから、今日はお話を伺えることを楽しみにしておりました。まず、本間さんは、いつ上野山さんとお知り合いになったのですか。
本間浩輔氏(以下、本間)
初めて上野山さんとお会いしたのは10年近く前のことです。当時、現ヤフー傘下にある会社が運営していた、スポーツ総合サイト「スポーツ・ナビ」の仕事をしていたのがご縁になりました。その後、Jリーグの技術委員長をなさっていた上野山さんのコーチ研修で講師を務めさせていただいたこともあります。
人材育成の視点から見ると、上野山さんの指導は非常に興味深いものがあります。一言二言コメントするだけで子どもたちのプレーが良くなるだけでなく、顔つきまでもみるみる変わり、熱心に練習し始めたりするのです。
中原
上野山さんは具体的にどのように指導されているのですか?
上野山 信行氏(以下、上野山)
一般的にサッカーの指導法にはプレーを止めず、流しながら行う「シンクロ」、プレーをいったん止めて教える「フリーズ」という方法があります。
私は、止める指導が効果的と判断した場合は、ためらわずフリーズをします。基本的なプレーを疎かにしたり、成功したりした時、選手がプレーを忘れないうちにフィードバックしたい場合などです。
例えば、「今どういう動きをした?
練習の意図はこうだけど、どうしてこうやったの?」と聞きます。答えが返ってきたら、「失敗してしまったけど、どうしたらいいと思う?」とまた尋ねる。「こうします」という答えが出たら、「じゃ、やってごらん」と行動に移させます。
本間
この方法、一般的ではないんですよ。多くの指導者は「こら、またミスしたぞ!」と一方的に叱るだけです。
中原
なるほど、叱るだけで考えさせることをしないんですね。上野山さんは、とにかく問いかけて、選手自身の頭で考えさせることを重視なさっていますが、なぜですか?
上野山
サッカーが上達するということはプレーが改善する、つまり行動が変化するということです。僕は考え方が変わらないと行動は変わらないと思っています。考え方を変えるためには、やはりこちらが質問をすることによって考えさせる指導方法がいいと。