第6回 起業家・角田千佳さん 0から100 をつくる発想の力 角田千佳氏 株式会社エニタイムズ 代表取締役社長兼CEO|寺田佳子氏 インストラクショナルデザイナー
人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。
エニタイムズの代表取締役社長兼CEO である角田千佳さんが、ご近所さんに「お困りごと」を解決してもらえるスキルシェアサービスを立ち上げたのは、まだシェアリングエコノミーの概念すらなかった6 年前のことでした。
「子どものころは国連職員を目指していた」と話す角田さんが、地域のつながりを生むサービスを立ちあげた背景には、どんな気づきがあったのでしょうか。
01 将来は国連で働きたい!
「Anytimes(エニタイムズ)」……。「いつでも、どんなときも、どんな世の中でも」という意味だ。
実はこれ、「ちょっと手伝ってくれると助かるなぁ」とため息をついている人と、「それならおまかせっ!」とやる気満々のご近所さんをインターネットでつなげる、地域密着型シェアリングサービスを運営する会社の名前である。
6年前にその「エニタイムズ」を立ちあげ、モノではなくサービスをシェアするといういままでにない「助けあいのネットワークづくり」で注目されるのが、代表取締役社長の角田千佳さんだ。その斬新なアイデアは、いつ、どんなとき、どんな場所で生まれたのだろうか?
角田さんがはじめて「こんな人になりたい」と憧れたのは、かの天才科学者ガリレオ・ガリレイ。小学1年生のときのことである。
「学校の図書館のどの棚にガリレオの伝記が置いてあったか、いまでもはっきり覚えているんです」というから、何度も何度も読んだのだろう。
いったいガリレオのどこに、そんなに惹かれたのかしら?
「既成概念にとらわれない自由な発想や、『それでも地球は回っている』と信念を貫くところがすごいなぁ、って」
周りの友達は、かっこいいサッカー選手や人気のパティシエを夢見る年ごろである。歴史上の人物をまるで憧れの先輩のように慕う角田さんは、ずいぶん想像力豊かな少女だったに違いない。
しかし、小学校を卒業するころには、別の憧れの対象ができていた。
「卒業文集には『将来は国連で働きたい』って書いたんです」
きっかけは、これも1冊の本だった。
ある日手にした、元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんの著書。学校の教科書で学んだ「戦争」は昔の悲しい出来事で、今の自分には関係のないことだと思っていたが、その本を読んで愕然とした。
「今も地球のどこかで紛争や虐殺が起こっていて、家を失い、家族を失い、身も心も傷ついた人々が難民となって逃げまどっているなんて!」
国連の高等弁務官としてクルド人の支援を始めた緒方さんは、それまでの「国境を越えた避難民だけを支援すべき」という既成概念に疑問を呈し、「国境を越えたかどうかで支援を決めるのはおかしい。目の前の命を助けるために少しでも早く動くことが大事」と活動方針を変更した。さらに、指示するだけではなく、自ら危険な紛争地域に足を運び、難民たちが自立して暮らせる“まちづくり”の先頭に立って働いていたのである。
「日本人の、それも女性で、こんなに勇気と行動力のある人がいるんだわ。私も……」