巻頭インタビュー 私の人材教育論 夢を持ち失敗を恐れず 世界一に挑戦することで イノベーションが生まれる
120年以上の歴史を持つ老舗企業であるクボタ。農機を中心とした機械部門、パイプ・膜を中心とした水・環境部門、素形材を中心としたインフラ部門が社会の基盤を支えてきた堅実な企業といえる。歴史の長さはそれだけの財産を意味する一方で、グローバルに挑戦しなければならない今、過去の成功が変化の妨げにもなりかねない。そうした中、同社を変える原動力となっているのが、「夢」である。トップ自ら、「夢を見ているか?」、「世界一をめざしているか?」と社員に声をかけることで、会社全体が大きな夢に向けて前進するのだ。
10年先の事業を語れる夢のある人材を育てる
――御社は、1890年創業の老舗企業です。120年以上の歴史の中で培われた社風は、どのようなものなのでしょうか?
益本
当社は、農機をはじめとする機械類、パイプ・ポンプを中心とした水道設備関連、膜・下水処理設備などの環境関連の分野を主力事業としています。「食料」、「水」、「環境」という、人間が生活していくうえで欠かせない社会基盤にかかわるビジネスを展開していることから、世間では、“堅実な会社”というイメージで語られることが多いようです。社員の自社に対する認識もこれと同様です。“派手さはないけれど、社会に必要なものを提供している”と思っている人が多いですね。しかも、これまでずっと業績も良かったわけですから、“社会の基盤を支えている堅実な会社”という認識を持っている人が大半ではないでしょうか。しかし、“手堅い会社”という認識ばかりが強くなると、どうしてもその上にあぐらをかいてしまいます。経営環境は速いスピードで変化しているにもかかわらず、“世の中に欠かせない事業をしているのだから、市場がなくなることはない”と思い込み、自分たちも変わる必要はないと錯覚してしまうのです。今、当社にとっての一番の課題は、こうした思い込みを変えることにあります。
――思い込みを変えるためには、どんなことが必要になりますか?
益本
まず、「夢を持たせること」だと思います。私は、社長就任以来、「新しいことにチャレンジすること」と「前例踏襲型の思考や行動を払拭すること」を訴え続けていますが、何かにチャレンジするためには、夢や目標が必要です。「こんな面白いビジネスがある。それをやってみたい」と思うことが、挑戦につながるのです。夢を持たせるための具体的な取り組みのひとつが、「技術開発戦略会議」です。この会議は、10年先を見据え、将来求められる技術開発の方向性について議論する場で、執行役員クラスで構成しています。実は、社長に就任した直後に、事業部長クラスに、「10年後にはどういう技術が必要になると思うか?」という議論をふっかけてみたところ、ほとんど答えが返ってきませんでした。みんな目先の仕事に追われ、その先まで見る余裕がなくなってしまっていたのですね。事業部長がそういう状況では、その部下が夢を語れるわけがありません。「こんな技術を開発したい」などと上司にいおうものなら、「この忙しい時に何をいっているんだ!」と一喝されてしまうのがおちでしょう。しかし、それでは、先細りになってしまいます。「技術開発戦略会議」は、2009年から始めましたが、「2年間かけて話し合ってもまとまらない」という声もあります。しかし、2年間議論する中で、見えてきたものが必ずあるはずです。私は、夢を現実のものにするためには、このような場で闊達に根気よく議論をすることが大切だと思っています。それに、簡単にまとめられるようなテーマであれば、逆に議論のしがいがなく面白くないでしょう。
――K’ei 塾という研修制度も「夢を持たせる」ための仕組みなのでしょうか?
益本
K’ei塾は、課題創出型人材を育成するために、若手中堅クラスを対象とした選抜教育制度です。この塾は、若手がいろいろな事業の可能性について考え、議論する場です。若い人たちは、普段は日常業務に追われ、将来の事業といった夢について語れる場はありません。ですから、あえて、それを語れる場をつくったのです。さらに、今年からは、K’ei塾の卒塾生を「技術開発戦略会議」に参加させるようにしています。